第5話 彼は部活入部に挑む

 どこの部活に入ろうか?


 部活といえば日常系アニメでも定番の題材。この部活チョイスがオレの高校生活にとって重要になることはまちがいない。


 涼白さんと伊万里さんと一緒の部活?いやいやそれは流石にねぇ。ストーカーぽいじゃん?だから聞いてないんだよね。それにおそらく二人は違う部活に入るだろうし。伊万里さんはあの筋肉のつき具合からしてテニス部とかじゃないかな。涼白さんは……あんまり筋肉もついてないっぽいし帰宅部かおとなしめの部活だろう。


 それはともかく部活紹介冊子を見る。この高校にはごく一般的な部活しかなく。よくアニメとかである変わり種の部活は存在しない。


 みんなが期待しているのことはわかるよ?軽音部でしょ?残念。この学校にガールズバンドはありませんでした。男ばっかりでした。はぁ本当に残念。ギター滅茶苦茶練習したのに。誤算が過ぎる。


 まずは昨日の茶道部に見学でも……と思ったところで見慣れない部活を見つける。その名も総合家庭科部。ふむふむ。説明を見てみると手芸同好会、料理同好会、園芸同好会という3つの同好会がくっつきこの部活になったらしい。


 よしここの見学に行ってみよう。


 ***


 コンコン


 「どうぞ」


 「失礼します」


 ドアを開ける。風が顔にたたきつけるように吹いた。思わず目をつぶる。それからゆっくりと目を開けると最初に飛び込んできたのは白色。風になびく白髪と日焼けなど全くない色白の肌。そして次に目に入るのは赤。その少女が来ているチャイナドレスの色だ。


 ……さすが服装自由。こんな人までいるのか。


 「おっとすまない。ちょっと換気をしようと…………ちっ。なんだ男か」


 オレを認識した瞬間に声の温度が下がった。なぜだろうか同じ匂いを感じる。


 「ここは総合家庭科部。何かようかな?」


 「部活動見学に来ました」


 「そうか。それは残念。今日は活動してないんだよ」


 「それで先輩以外いないわけですね」


 先輩かな。先輩だよな。なんか偉そうだし、一応敬語を使っておこう。


 「もっと残念なことに、君の入部は認められない」


 「唐突!何故です?僕はここの生徒ですよ!本当です!嘘じゃないです!信じてください!」


 「そんなに言いつのられると逆に怪しいな。別にそんなことは疑ってない。ただ君が男だから。だから入部できない。違うな入部させない」


 「はい?」


 特に女性限定とは書いていなかった気がするが。できないではなくさせない。つまり先輩の匙加減ということ?とんだ絶対王政があったもんだ。うちの姉ちゃんかよ。


 「いいかい。総合家庭科部は私が作った部活だ。つぶれそうな同好会を集め、一つの部とすることで存続さた。もちろん部活創設の際は頭の固い教師たちと戦ったりもした。そして女の子を勧誘・引き抜きをして部員を増やし、苦労して苦労してここまで作り上げた部活なんだ。それがなんのためかわかるかい?」


 「女の子たちが部活をやっている様を思う存分鑑賞するため?」


 「おしい。いい発想だけど、もう一声足りなかった。作った理由それは、私の美少女ハーレムをつくるためさ!」


 へ、変態だぁ!現実に美少女ハーレムを作るとか堂々と言い始めた。未だかつてこんな形の部活の私物化があっただろうか。


 だが天才か。誰もが一蹴してしまいそうなことを実現にまで持っていった。自分が美少女であるからこそできることだが。もしオレが同じことをしようとしてもきっと信用されないだろう。それでも本当にやってしまう行動力。尊敬に値する。これが先輩。オレもこんな高校生になれるだろうか。


 つまりここは先輩による百合の花園なわけだ。


 うん。入部したい。


 「ということでお帰りはそちらだ。そのまま下がるだけでいい」


 先輩はソファーにどかっと座り込むとすげなく言った。


 「嫌です。帰りません。僕をこの部活に入れてください!」


 「嫌だね」


 がばっと先輩の足元に這いつくばる。


 「僕をこの部活に入れてください!」

 

 「ええ、人に土下座って初めてされたな。特に気分がいいもんでもないんだね。正直私のハーレム発言の後にこんなに必死になられても怪しさが先行するんだけども、何が目的だい?私のハーレムでも乗っ取るつもりかな?」


 「乗っ取るだなんてとんでもない。僕は先輩を心の底から尊敬しているんです。先輩の在り方に僕は感動した。先輩こそが僕の理想の人だったんです!」


 「私に惚れたと?ごめん男は正直範囲外なんだ」


 「そんな話してないでしょうが!こっちは真面目に話てるんですよ!」


 「え?今何で私が怒られたのかな」


 「僕は女の子が女の子と話しているところ、遊んでいるところ、触れあっているところが見たいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 情熱のままに言葉が流れ出た。はぁはぁはぁとオレの息遣いだけが、教室に響いた。そんなオレを見てドン引きした様子の先輩。


 「変態?」


 「何を言っているんですか。綺麗なものを見ていたいというのは人間の真っ当な感性です」


 「とりあえずそんな危険人物なおされ入れられない」


 「……そうですか。わかりました」


 「わかってくれたか?」


 こうなったら最終手段を出すしかない。


 「はい。僕も先輩のハーレムに入ります!」


 「わけがわからない」


 オレはカバンから鬘と化粧セットを取り出す。


 「女装には自信があります!」


 「うん。君の危険度がどんどんあがっていくね。一体女装して何をしたんだい」


 「え?世の弟諸君は姉と出かけるときは女装がデフォでは?」


 「特殊だよ。随分特殊な家庭だよ」


 そうかあれは姉ちゃんたちの趣味だったのか。まあいいや。


 「ではちょっと待っててください!」


 「もう帰ってくれないかな」


 ***


 「どうですか」


 「…………………………………………………………………………………………………………美人だ」


 額を抑えてだいぶ長い葛藤のあとにそう言った。


 「くやしい。でも美人だ。君が服を変えずに学ランのままというのもまたいい。黒髪ロングのクール系美人が学ランを着ているというこのギャップ。くそ、なんで男なんだ君は。君が女だったら好きになっていたかもしれない」


 そのセリフを女性が男性に行ったのはもしかしたら世界初なのではないだろうか。

 

 「そういえばなんで学ラン?珍しいね」


 「チャイナドレスの人に言われても…………」


 服装自由ということは別に中学の学ランを着てもいいわけで。かっこよくない学ラン?あと単純に私服が少ないから。服買うぐらいならアニメグッズ買うとういことを繰り返した結果こうなった。姉のおさがりはたくさんあるんだけど、当たり前にレディースだからな。


 「チャイナドレスは衣装合わせをしていただけ。今度部活の活動で中華風お茶会するから」


 「つまりみんなチャイナドレスを着ると」


 「みんなじゃないけど、着たい人は中華っぽい服をきることになってるな」


 「そうですか。入部しなければならない理由がまた増えました」


 「まだ保留中だからね。あと色仕掛け用。見学・入部希望の女の子たちを誘惑するための」


 入部希望がいつのまにかお断りから保留になっている。実はちょろいですか先輩。


 「で、どうなんですか先輩(裏声)」


 「ぐっ……でも私妹系の方が好きだしな」


 「わかる」


 日常系アニメの登場人物って妹系多くない?何故だか妹っぽいよね。自分と同級生または年上もいるのに。


 「どうします、跪きましょうか」


 「フェチをくすぐる作戦で来たか。趣味ではないけど一応やって」


 先輩の前に跪き手をとり掲げる。


 「私の忠誠をあなたに(裏声)」


 「ぐっ」


 わかるよ。妹系が好きというのは別に、他が好きじゃないという意味ではないからね。これはいけるかな。とオレがほくそ笑んでいたその時。


 コンコン。ドアのノックの音。ガラガラ。すぐさまドアを開ける音。


 「失礼しま~す。部活動の見学に……え?」


 現れたのは涼白さん。目を見開いて驚いている。


 『先輩こそが僕の理想の人だったんです!』涼白さんを見て先ほど自分が言った発言を思い出した。


 「違うんです涼白さん!浮気じゃないんです!(裏声)」


 「私を変な修羅場に巻き込むのやめてもらっていいかな」

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