第6話 彼と先輩は波長が合う
「涼白ちゃんだったかな。お茶でいいかい?」
「あ、すみません。いただきます」
先輩がオレへの態度とは打って変わって猫撫で声で話しかけ、あまつさえもてなそうとしている。まあ誰だってそうする。オレだってそうする。
「先輩!僕もお茶お願いします!」
「お菓子は何があったかな」
「先輩。お茶をいただけませんか?(裏声)」
「くっ」
くやしそうにお茶をくれた。それでいいのか先輩。
「「「ふぅ」」」
3人でお茶を飲み、一旦落ち着く。
「あのそれでさっきは何をやっていたんですか?」
ピシッと固まる先輩。やはりさっきの光景は衝撃的だったのかすぐさま聞いてきた。それはそうだドアを開けたらチャイナドレスの先輩に学ランの女装した同級生が忠誠を誓っているのだから。特に学校でチャイナドレスを着ている先輩が一番おかしい。
「あれは先輩が女装して跪いて欲しい「あああああああああああああああ!ちょっとこっち来ようかぁ!」
おうおうおう。首根っこを引っ掴まれ部屋の隅まで引っ張っていかれる。みんなすぐそこを掴むんだから!
「何を言ってんの!何を言ってるんだ君は!」
小声でしかし強い情念を感じる。
「先程の状況の説明を」
「あの言い方だと私が男子を女装させて跪かせる変態になっちゃうでしょうが。そもそも女装は求めてないし」
「ならば女装したら先輩が跪いて欲しいと言われたと説明し直しますね」
「どっちみち変態!そもそも二つとも私が要求したわけじゃないんだからその説明をやめてって言ってるんだ」
「じゃあどうしろと?」
「……全部君が求めてきたことにしてくれ」
「僕が女装して跪かせて欲しいと先輩に頼んだと?」
「うん」
「別にそれは良いですけど、要求を先輩が飲んでいる時点で変態の謗りは免れないのでは?」
「あああああ」
「もう良いじゃないですか。どうせハーレムを作ろうとしている変態なんですから」
「ハーレムを目指すのは変態じゃないもん」
「もんって」
そんな幼児退行するほど?
「いいかい……ん?君名前聞いたっけ?まあいいや。後輩くん」
「はい」
「私はね頼れる先輩キャラで売ってるんだよ」
「はぁ」
「私に頼って寄りかかって、そして気づいたら私という沼にはまりもう逃げられない。私に捕食されてい
ると。そういう魂胆なんだよ」
いや先輩の口説きのテクニックはどうでもいいが、なるほど涼白さんの可愛さにやられて、先輩のハーレムに引きこもうとしているわけか。
一目あっただけで自分の虜にしてしまうとは流石涼白さん。さすすすだ。語呂が悪い。
あと先輩が拙僧ないというのもある。
「つまりは涼白さんを狙っていると……わかりました。オレに任せてください」
「わかってくれたか」
密談を終え、お茶とお菓子(小分けのバームクーヘン)を楽しんでいる涼白さんのもとに、二人で愛想笑いを浮かべながら戻る。涼白さん大物だな。
「さっきのことですが」
「うん」
先輩がニコニコと涼白さんに笑顔を振りまいている。しかしオレにはわかる。ナンパ男のようなにやけづらが裏に潜んでいることを。ふっもう安心したように座りおって。
「オレが……女装したら先輩が跪いて欲しいって言ったんだ」
「後輩くん!」
先輩が裏切り者を見る目でこちらをみているが、それはお門違いというものだ。オレは先輩の言う通りにするとは言っていないのだから。女装はオレが自主的にしたことだが、跪かれたいというのは貴様のフェチだ!
椅子からけたたましい音を鳴らしながら立ち上がる。
「クハハハハハハハハハハハハ!見誤ったな先輩!涼白さんがただのクラスメイトだと思ったろう!それは間違いだ!」
腕を水平に広げ片足をあげて威嚇する。
「推しなんだよ彼女らは!その聖域に先輩を決して踏み込ませてなるものか!」
「き、貴様ぁぁぁぁ」
教室は混沌に包まれる。オレの高笑い、先輩の怒声、涼白さんの袋を開ける音。
「「………………。」」
「楽しそうな部活だね」
「涼白さん」
「ん〜」
「バームクーヘン美味しいですか」
「美味しい〜」
もしかして話聞いてなかったのかなとか。実は涼白さんもやばい人なんじゃないのとか色々言いたいことがあるかも知れないでも、
「後輩くん」
「何ですか?」
「私は今彼女の朝ご飯を毎日作りたいと思ったよ」
「奇遇ですね。僕も毎日味噌汁を作らせてくれと思いました」
自然と先輩とオレは握手をしていた。何を言い争っていたのかはもう忘れた。
***
「では改めて総合家庭科部部長、2年の
「1年の涼白アリアです。よろしくお願いします」
「同じく1年の日下部宗介です。気軽に日下部って読んでください」
「それでアリアちゃんは入部希望でよかったのかな」
無視ですか先輩?つっこむところですよ。「どこが気軽だよ!」って。わかりにくかったかな。
「はい。これ入部届です」
「うん。入部届に不備はなし。承認っと」
「あ、次これもお願いします」
流れで一緒に入部届を出してみる。
「…………承認」
あれま。
「いいんですか?」
「元々入部を拒めることなんてできないからね。よっぽど活動に支障をきたすような場合は別だけど」
「それなのにあんなに拒んでたんですか……」
「拒んであきらめる方が悪い」
「そんな無茶な」
ドキドキの新入生に向かって何をやってるんだあんたは。
「君はあれだな。何を今更未練がましく常識人ぶった発言をしているんだ。手遅れだぞ?」
「徹頭徹尾常識人ですけど」
「はは」
「先輩?」
今鼻で笑いました?
「それに」
先輩は口元をむにょむにょさせてから、こちらから視線を逸らして言った。
「それにさっきまでの会話はなかなか良かった。楽しかった。私を楽しませてくれた君の会話術に免じて入部をみとめてあげよう」
「先輩……」
照れくさそうに言う先輩。そんな先輩にオレも正直な気持ちを打ち明けた。
「今更そんなムーブかまされても心にはあんま響か「よし、ころおす ♡」
「あ、待って待って先輩。涼白さんが見てる」
「関係ないね。どうせ口説けないんだから」
「いやもく、げき、しゃ」
「あはははははははは!」
涼白さんめちゃくちゃ笑ってます?幻聴だよね。オレの意識朦朧としているし。涼白さんだったら心配して止めてくれるはず。だから何個目かわからないバームクーヘンに手を出している光景もきっと……幻……覚……
笑顔あふれる楽しい部活に入りました。
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