6-1
景色が暗い。真っ暗だ。体が重い——気がする。瞼がぴくりと動き、張りついた境目の感触で、目を瞑っている、と優は気がついた。
アラームの音が鳴る。どうやら眠っていたようだ。体を起こし、アラームを止める。重い瞼を無理に押し開くと、薄ぼんやりと青い、暗い景色が見える。
目が慣れてくるとわかる。どう見ても自分の部屋だった。
——夢を見ていたのか。
ぼんやりとする頭を起こそうと、額を抑えて体を揺らしながら記憶を探った。やはりあまりにも突拍子がない話に、ひどい初夢だとしか思えなかった。瞬間移動装置だとか、世界を巻き戻すだとか——じゃあ、現実はどこからだろうか。
ベッドから這い出て、優はカーテンをちらりと開けた。外は暗い。街灯の煌々とした白い光だけが、真っ直ぐに差しこんでくる。
暮れたのか、開けていくのかもわからない。とにかく体が重い。——疲れた。
優は再び、ベッドに倒れこむ。天井がぼんやり青く染まっている。瞼は重いのに、眠れる気がしない。きっと慣れない接客業をしたせいだろう。そうだ、神社でアルバイトをしたんだ。あれ? そうなのか。それは夢じゃあないのか。うん、そうだろう。そこまでは
ふっと視線を横へずらす。薄ら闇の中、寝息を立てるヴァンパイアの銀の輪郭が二つ。そのあどけない子供のような寝顔を見ているうちに、瞼が落ちてきた。浅い眠りから覚めた時、真っ白な天井を見て、朝へ向かっていたのだと気づいた。
「お兄さん、おはよ〜」
「おはようございます、お兄さん」
ヴァンパイアたちがのろのろと布団から出張り、互いに向き合って歯を磨き、身を整え始める。鏡に映らないため、身だしなみはこうやって見てもらうか、血をもらったついでに——催眠で——人間に整えてもらっていたそうだ。最初は距離の近すぎる慣れない光景にギョッとしていたが、もう見慣れた。
「おはよう……あ」
明けましておめでとう、と優が口にしかけたところで、うがいを終えたマシカは口を開いた。
「昨日も言ったけど、僕ら今日、フラン先輩のとこ行ってくるからね」
「ん?」
「朝から来いって言われてたから——八時には出ようかなあ、冬って言っても、ピーカン照りだったらやだなあ〜」
「……ちょ、っと、なあ」
優は、首を傾げて眉を寄せる。
「今日って……何年何月何日だ?」
「え?」マシカとヨヴは、顔を見合わせる。
優は尋ねておきながら、答えを聞く前に、スマートフォンの画面を見た。
2021年12月31日 ——午前七時。
「大晦日、っていうんですよね」
ヨヴは確かめるように言う。
「わざわざ確認するとか、そんなに楽しみなもんなの?」
ほんとに人間の文化ってわかんないなあと、マシカは小さく欠伸をした。
「は……?」
優は、言葉が紡げなかった。
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