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「——ということになる。どうだろうか。規模が大きすぎる。通常年単位——年では済まないな——かけるべき計画だが、いや、前の実験過程を応用してみるか、しかしな」
「なんて?」
高速で繰り広げられる詠唱に優は途中から意識が飛んでいた。
「やめよう、お兄さん。聞くだけ無駄なんだ」
「そもそも僕たちへの説明じゃないですね、これ」
ヴァンパイアたちは優の肩を叩く。どんな方法かは知らないが、フランは、この集団パニック事件を「なかったこと」にしようとしている。
「ああ、非効率的だ。遊泳の存在に干渉した方が早い」
「殺人の計画!?」
「効率の話だ。実行できるなら私の楽園はとっくの昔に完成している」
新世界の神になる気か?
真顔で言い放てるところを見ると本気らしい。余計な口を挟むのはやめよう。
「博士にも縛りがあるんですね、ロボット三原則みたいな」
「法律で決まってんだわ」
話を聞いている限り唯一まともだったヨヴも毒されてきている。いや、元々やっぱりズレているのかもしれない。
「実際どうするというのだ、ドクター。「なかったことにする」というのだから、スポンサーに全貌を明かしてくれてもよかろう。タイムマシンでも作ろうというのかね。それとも何か、時を超える車かね」
ダラマはポケットに手を突っこみ、何かを取り出す動作をする。何も握られていない手を開き、嘲笑うように指先で軽やかに空を撫でた。
「私の瞬きひとつで世界が変わる可能性がある。単独の時間遡行は危険だ」
「では、どうする?」
「だから、なかったことにする。
「そんなことできるの!?」
ギョッとして、マシカは目を見開く。
「瞬間移動装置を応用すれば私の理論上可能だ。ただし、この簡易装置では破損が免れない。この一回きりだ。失敗したなら、私も諦める——一旦はな。例え何十年かかってもこの事実は消し去ってやる」
「お、オカルトだ……」
優はゾッとして後ずさる。理解はまるで出来ない。一周回って子供の空想だ。だが、この怪物なら成し遂げてしまう——彼の低い声色に、そんな凄みを感じてしまった。
「私自身も震える思いだよ。成功したならこの世に蔓延る神は死ぬだろうな」
怪物は低く、低く喉を震わせて笑う。暗い瞳の輝きに、高笑いを堪えるように歯を食いしばり堪える吊り上がった唇の歪み。ヴァンパイアすらも息を呑み、怯むほどの圧があった。
「なんでここまでするんですか……?」
ヨヴはおずおずと尋ねる。フランは肩を小刻みに揺らしキーボードを打つ。その指先はかすかに震えていた。歴史に刻まれないが、歴史的なことをしてやろうというのだ。感動に震えずしてどうする。
タイピングのスピードが徐々に遅くなる。フランは興奮に濡れ、充血し爛々と輝く眼球を、立ちすくむ面々に向ける。準備が整ったということだ。
「……どうせ
地震のような、足元をおぼつかなくする揺れが研究室を襲った。
優はまた、目眩がした。同時に縦に身を裂かれるような痛みが体を走り抜け、そこで意識は途絶えた。
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