4−2
*
「何が宇宙人だ。大した想像力だ、度し難い」
「いやアンタがいちばん度し難いんですよ」
人間の想像力を超えるな。フランの研究室に来るなり、優は全ての顛末を聞いて目眩がした。
ヴァンパイア三名にトンデモ発明家の怪物一人。新年早々メンツが濃い。
「まさかこんなことになるとはな! 吾輩もメディアに出ることができたのならよかったのだが」
声色は随分と残念そうだが、愉快さの滲む目の歪みは抑えられていない。「人間の味方」というように人間社会に馴染んだ経営をしているダラマだが、命の価値より面白さを取るところはやはり長命ヴァンパイア独特の価値観かもしれない。
「フラン博士はテレビに興味ないんだもんな〜」
マシカは唇を尖らせる。遊び好きのためかエンタメに興味が深いようで、テレビやSNSなどの「映え」が好きらしい。
「下らん」
「ていうか、人前に出るのが嫌なだけでしょう?」
「っていうより、人前に出るのが怖いんだよね?」
「………………面倒なだけだ」
ヨヴに続いてマシカの追撃に、フランは押し黙った。
優はなんとも、いたたまれない気持ちになった。だがフォローが出来るような人間ではなかった。押し黙り目を逸らしたのである。
口を噤んだ陰キャたちをよそに、マシカはスマートフォンでSNSを開き、切り抜きの動画を再生する。
「しっかしこの遊泳歪って人、本当にUFOとか宇宙人とか信じてるんだね。すんごい熱量」
「これだけ真剣に説かれると納得してしまいそうですよ……」
ヨヴは画面を覗きこみ、肩をすくめた。
「こちらが沈黙し続ける限り、遊泳歪氏の名誉は守られるというわけだな。どうする、この人間を強請ってパトロンを増やせはしまいかね」
経営者の発言ではなかった。
「あいつに強請など効かん。そもそも話が通じん」フランは片目を瞑る。
「フラン博士とは相性悪そうですよね」
「早口のテンションは似てるけどね」
「どこがだ!」
フランが息を吸い言葉を注ごうとするのを遮り、優はさっきから言おう言おうとしていた文句を口にする。
「いや本当にどうするんですか、こんな事件、責任取れるんですか」
「なぜ私が責任を取るんだ?」
「被害を見ろ!!!! 訴訟もんじゃねえか!!!!」
「訴訟は困るな! ドクター。金は出すから、吾輩の名前は出さないでくれたまえよ」
ダラマが口を挟む。もうだめだ、この経営者。
「誠実な経営をしてくれ」
「吾輩の経営に不正などないが?」
「経営以外の素行に問題があるんですよ……」
「放っておけ……と言いたいところだが、厄介だな」
フランはモニターで『どうなってんだミステリー』を見ていた。驚いて目を丸くする女優や、真剣な顔つきの司会者が抜かれ、それからアップで遊泳歪の熱弁する様子が映される。
「私の発明がオカルト扱いされるのは甚だ不快だが、オカルトのうちは忘れ去られる——が、相手が悪い。遊泳歪に興味を持たれては困る」
フランはそう言い、眉間の皺を抑え、小さく唇を動かし始める。ぶつぶつと早口が溢れていく。聞き取れるか、取れないかの独り言だ。
「どうにかしなくてはならない。金で手を引くような人間ではない。情報規制。削除……いや、魚拓も含めればキリがない。小手先の隠蔽ではあの男から逃れられないだろう。隠蔽。抹消。例えばそう——
優は、巨躯を折曲げモニターに向かう白衣の怪物を見つめる。なぜ、厄介なのか。一体なにをしでかすのか。尋ねる隙もなく、予想はまるで付かない。だがその心中にあるものは、不安でしかなかった。
「そうか」
不意に、フランは顔を上げた。
「
嫌な予感がしたし、それは多分、現在進行形で当たる。
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