3-2
*
時刻——二十三時半。
「……こんなものでいいか。精度は十分だろう」
フランがそう言い一息ついた横で、マシカとヨヴは焦点の合わない瞳で宙を見つめて倒れていた。
「僕ら何度宇宙行ったんだろう」
「人間の生涯行ける回数は大幅に超えましたよ」
それなー、とむくりとマシカは体を起こして、時計を見て叫ぶ。
「ん? あーー! もう二十三時過ぎてるよ! 見逃したじゃん!」
「何をだ?」
「『世界どうなってんだミステリー』四時間スペシャルですよ!」
「ああ、あのオカルト番組か。人間は節目にオカルトを浴びる習慣でもあるのか? 年一で見ている気がするぞ。しかも内容は毎度同じではないか」
ダラマは腕を組み、呆れたように鼻で笑った。
「くっっっっっっっっっっだらん。見るな、そんな陳腐極まりないもの」
「ええ、そんなの見てみないとわからないじゃないですか」
吐き捨てたフランに、ヨヴは白衣を掴み縋りついた。
「言っておくが、君が望む話がされると思わない方がいい」
「望む話って?」
「
「ああ、確かに、昨今は解明することをメインにしている気がするぞ」
「まあ、今の世の中って理由がつけやすいもんね」
ダラマとマシカは続いて相槌を打った。それからふと、ダラマは瞼を持ち上げる。
「だが今年は遊泳歪が出ると聞いたな。あのUFO研究家はなかなか面白いぞ。今の時代の流れに反してオカルトめいた話しかしない」
「遊泳歪?」
ピクリと眉を微かに動かしたフランに、ヨヴは尋ねる。
「知ってます? 博士」
「……実に下らん人間だよ。証拠もないことを仮説だけ並べ立てて話す。妄想の域の仮説だ。何がUFOか。何がキャトルミューティレーションか。な〜〜〜〜にがアブダクションか。仮説の風呂敷を広げるのだけは上手いからタチが悪い。無知の低脳が湧く。奴のいい餌だ。証拠が示せるならば文句はない早くその論文統計物証証人実験結果を引っ提げてこいというのだ。その上––––」
「この話突っこむと長そうだな」
「もういいです、十分です、博士……」
ブツブツと呪詛の如く文句を並べ立てるフランをよそに、マシカはじっとモニターを見つめていた。一見ただのパソコンなのだが、どういう理屈で瞬間移動など可能になっているのか——そんなことはマシカにはわからない。気にすることもない。だが、聞いてみたいことはあった。
「ねえねえねえ、この装置って人間には適用できるの?」
「改良を重ねれば可能だが、今回は依頼主個人の使用だからな」
「でもさ、僕らが宇宙に行きまくってるから、これってダラマさんの要求を満たさないよね」
にや、と牙を見せて、赤い瞳を歪める。
「ああ、『
ヨヴは首をすくめて笑った。多分、マシカは自分たちだけがこんな目に遭っていることがただただ気に食わないだけなのだ。ヨヴは文句を言うだけ徒労だと思い、ただただ年が明けて解放されることを願っていた。が、ダラマはマシカの肩を持った。
「言われてみれば確かにそうだ! おい、ドクター、どうするんだ。もう時間がないじゃあないか」
「実験を重ねない訳にはいかないだろうが!」
フランは真っ当なことを言った。やっていることは真っ当ではないが。
「いつもなら即実験台にしかねないのに」
「半分は後払いだったからな!」
ダラマは高らかに狡いことを宣言した。いやコスくはないのか……。
「命綱ですね……」
「ならさあ」マシカはピンと指を立てる。「史上最多数の人間を宇宙に連れて行った初めての
「そして実現させた史上初の博士ですか」
ヨヴは何気なく呟いた。それが、いい大人のロマンをくすぐる相乗効果になろうとは、無邪気なヴァンパイアの知るところではない。
「ほう」
「史上初か、いい響きだな」
怪物たちに、常識はない。
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