第7話


 六畳一間の部屋に三人は狭い。三分の二人間ではないが——ひとまずいいだろう。ヴァンパイアたちは、言動や振る舞い、面立ちはどことなく子供じみたところがあるが、図体はでかい。

 知我は窓を開け、頬杖をついた。秋らしい涼しい風が頬を撫でる。晴れてはいるものの、日差しは柔らかい。今はヴァンパイアたちは、公園へ遊びに行っている。誤解(誤解ではない)が解けたらしく、子供たちとは友達になったらしい。また子供たちと追いかけっこでもしているのだろう。

 ヴァンパイアたちがいない間だけ、知我は二郎系の呪縛から解放される。窓を開けて掃除機をかけ、改めて部屋の狭さを感じていたのだ。

 姿消せますのでお構いなく、と奴らはいうが、そういう問題ではない。姿を消されると噛まれるから厄介なのだ。

 しかしなぜ、奴らは出ていこうとしないのだろうか。ハロウィンには出て行くらしいが、律儀に守らずさっさと出ていけばいいものを。こんな手狭な部屋——。

 開け放した窓を背にし、部屋をぼんやりと見つめる。薄型のテレビ。敷きっぱなしのベッド。テーブルに置きっぱなしのゲーム機と、薔薇とチョコレートの置かれた木皿。クローゼットの近くにまとめられたアウトドアグッズと、大学用のリュックサック。

 ぽつりぽつりと点在する家具を一つ一つ見ていると、部屋がずいぶん閑散としているように思える。……こんなに広かったか。

 部屋に風が流れて、カーテンがふわりと揺れた。

 あの二人がいないと、こんなにも空間が広い。がらんとしていて、なんというか——いや。

 知我はかぶりを振って、部屋への視線を切って窓を閉める。

 さっさと出ていけばいい。

 願わずともどうせ、ヴァンパイアたちはハロウィンに出ていくのだ。

 午後からある講義のために、リュックサックを背負い、部屋を後にした。

 


 

 この辺の雰囲気に慣れようと、会社の独身寮の下見帰りの一人の男は住宅を見回しながら歩いていた。不意に、目立つ風貌の人影を見つけ、思わず注視した。

 西洋らしき雰囲気の少年二人が、家の前で話しあっている。一人はショートカットヘアで丸い瞳で優しい顔立ちをしていて、もう一人はロングヘアの、大人びた顔立ちをしている。そしてどちらも、白い髪に赤い目をして、黒い襟付きのマントをしていた。よく見ると少し、耳の先が尖っている。

 特異な風貌に目を惹かれ、男は歩みの速度を落として会話に耳を側立てる。

 

 ——あれ、開いてない。

 ——いないんでしょうか。

 ––––しょうがない、帰りまで待とうか。

 ––––本当に、入れてくれるでしょうか。

 ––––どうして?

 ––––だって僕たち、ヴァンパイアじゃないですか。

 …………。

 …………。

 ……それは……ほら、大丈夫だよ。

 …………。

 ––––やっぱり迷惑かな。

 ––––マシカ、明るいことをいってください。

 ––––いい出したのはヨヴの方だ。

 ––––だって、僕……すみません。

 ––––いいよ、わかる。僕だって。


 少年たちは無言になる。男が少し近づこうとすると、少年たちは不意に影になって消えた。

 男は一瞬驚き、身構えた。姿を消されたということは噛まれるかもしれない––––そう思ったが、その予感は当たらなかった。何もされずに済んだのだ。

 この辺りには、ヴァンパイアが多いのか。しかし、あの少年たちの話を聞いていると、まるで誰かに遠慮をしているかのような口振りだった。遠慮をするヴァンパイアなんて初めて見た。田舎のヴァンパイアは、遠慮なんて全くせずに噛みついてくるものだから、こちらが対策を取らなければ、血が足りなくて困った。

 しかしなあ。男はしみじみと、かつてともに夏を過ごしたヴァンパイアを思い出す。粗野で食欲旺盛なやつだった。

 ––––それでも仲は良かったから、秋が来るたび寂しかったんだよなあ。

 思い出に懐かしくなりながらも、男は再び、駅へと足を向け歩き出した。

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