第3話

 山に行くとまたヴァンパイアを連れてきそうなので、用事のない日は家にいるしかない。しかしじっとしているとヴァンパイアが寄ってくるのでエクササイズをはじめた。最近流行りのゲームを使って全身を動かすものだ。

 知我はテレビに映るゲームの指示に従い、リングを押しこんだり身体を捻ったりを繰り返した。

 その間ヴァンパイアたちは後ろで大人しく花びらとチョコレートをかじっている。この代替品のおかげで、血を狙う頻度は僅少減ったが、一向に出ていく兆候はない。マジでハロウィンまで居座る気なのか。

「もう別の場所へ行けよ」

 ゲームの合間に知我が声をかけると、ヴァンパイアたちはモニョモニョと口を尖らせる。

「いやこの辺二郎多くて……」

 短髪のヴァンパイアがしょんぼりという。

 二郎とは二郎系ラーメンである。駅に近い飲食店街は、なぜかニンニクマシマシのラーメン店やすた丼などが多い。付近に独身寮があり、知我のような一人暮らしの大学生も多いからだろう。

 それはそれとして。

「……あ? 俺も食ってるが?」

 甚だ疑問である。胃袋破壊の覚悟でほぼ連日摂取しているというのに。俺の努力は独身寮と店舗の匂いに負けるのか。

 知我の圧迫疑問に答えることはなく、ヴァンパイアたちは身を寄せあいしょんぼりとしているように見える。が、しょうがないですよねえ、という表情には図々しさが滲んでいる。こいつら。

「もう部屋がめちゃくちゃニンニクくさいんですよ、逆に身体に悪いですよ」

 長髪のヴァンパイアが窓を開けながら心配そうに口にする。窓を開けると曇天だった。ヴァンパイアは暗闇でしか生きられないと思っていたが、曇りならギリ平気らしい。

「あ? 誰のせいでこうなってると思ってんだ山に帰れ」

 連続でヴァンパイアどもの脳天に十字架を突き刺した。

「んびゃ!」短髪のヴァンパイア。

「いぎゃあ!」長髪のヴァンパイア。

 ヴァンパイアどもは情けない悲鳴とともに即座に霧散した。姿を消しただけだろう。天井の隅から情けない声が聞こえる。そこまでは流石に手が届かない。追い撃ちでファブリーズを噴射しておいた。ンギャ! と絞り消える甲高い声が聞こえた。

 まったく。知我は眉根を寄せて舌打ちをした。

 興が削がれた。コントローラーを置いて、Tシャツの襟を引っ張り首元の汗を拭う。

「……そんなににおうか」

 いや臭くていいんだけど。ヴァンパイア対策だし。気にしてないけど。知我は服の襟を引っ張り、確かめるように嗅いだ。

 本当に気にしてないけれど。

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