第2話

 ヴァンパイアが増えた。長く白い髪。つり目気味の赤い瞳。襟付きの黒いマントをつけた少年が、背後霊のようについてきている。絶対に反応してやらない。知我優はそう決め、決して振り返らずに住宅街を歩いた。その姿はめちゃくちゃに目立っていた。

 知我の趣味は、アウトドア系だ。トレッキング、ハイキング、ボルダリング、BBQ、川釣りなど、とにかく山行事が好きだ。重い黒髪に細身————というより貧相に見える体格とは裏腹に、体力がものをいう趣味が多い。

 ゆえに勿論対策はするものの、外でヴァンパイアに血を吸われるというのであれば仕方がないものだと考えている。自然の一箇所を借りて遊ばせてもらうのだから、吸われるのなら自然に従うというものだ。

 だが、家に戻ったあとは話が違う。自分のテリトリーをうろつき、勝手に血を吸ってくるのは問題だ。


「うわー! お仲間じゃないですか!」

 家の扉を開けると問題の少年ヴァンパイアは相変わらず六畳一間に居座っていた。

「お邪魔します」

 背中に張りついていた長髪のヴァンパイアが入るなり言葉を発する。

「お邪魔するな」

「もう入っちゃったので……」

 向き直った知我に長髪のヴァンパイアは眉を下げ、控えめにお辞儀をする。背は知我に迫るほど大きいが、顔立ちは少年の影を残していた。が、知我には特に歓迎がない。

「出てけ〜」

 かさばるから邪魔だと十字架をかざしまくった。

「あっ、あっやめて、消えちゃう……」

 長髪のヴァンパイアはか弱くマントで顔を隠し、そのまま霧散した。

「あ、効いた。まじで」

 呆気なさに少々驚きつつ、もう一人の短髪のヴァンパイアと顔を見あわせる。知我は迷わず十字架をかざしにかかった。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよう。数日過ごした仲でしょう」

「ない。そんな仲はない。さっさと出ていきなさい」

 十字架を近づけると駄々をこねる子供のように反り、嫌がった。じりじりと焼かれるような音がする。短い付き合いだった。さらば、少年ヴァンパイア。

 ——と思っていると、か細い声が聞こえた。

「姿は消せるので邪魔には……」

 振り返ると、赤い光が二つ、モヤに包まれて浮いていた。どうやら浄化された訳ではなく、姿を消したようだ。

「そうそう、一緒に住みましょうよ。ねえ同胞」

 短髪のヴァンパイアは元気に知我の後ろで身体を揺らしている。

 なんということだ。知我は眉をしかめる。ここで出ていけやら出ていくまいやら推し問答をしていては時間の無駄である。

「……お前もハロウィンには出て行くのか?」

「そうです」

 靄だった長髪のヴァンパイアは姿を現し、頷く勢いで知我の腕に噛みついた。がぶっ。

 こいつ!

「つい! 美味しそうで!」

 長髪のヴァンパイアの脳天にも筒状に丸めた新聞紙を叩きこんだ。

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