第2話 幼馴染はわかっている

 僕が引きこもってから3日が経った。

 

 あれから僕は家族が家にいるときは部屋から出ないようにした。

 出ないようにしたというより出たくなかった、という方が正しいいかもしれない。


 学校に行ってすぐ帰って来た僕はかばんを学校に置いたままだった。

 放課後、うちから一番近いクラスメートが鞄を届けに来て、母に万引きの噂が学校中に広がっていたこと、それによって皆が冷ややかな目で僕を遠巻きにしていたこと、噂を広めたのが店員に僕が万引きをしたと言った同級生だったこと、その同級生は教師の前では優等生だが生徒間では評判があまり良くないこと、噂を鵜呑みにしてあんな態度を取って悪かった、と僕に伝えてくれと言って帰っていったそうだ。


「総ちゃん、もしかして本当に万引きしてないの?」


 ドアの向こうで母は言ったが、もう今更だった。


「総ちゃん…」


 それ以上何も言わず母の気配は離れていった。


 それから母は僕に強く言わなくなった。

 夜帰宅した父も母から鞄を届けに来たクラスメートの話を聞いて、僕が万引きしていないかもしれない、と思い至ったようで、部屋から出て来いとは言わなかった。


 翌日には部屋のバリケードを外したが、両親は部屋から出て来いとも、学校に行けとも言わなかった。

 食事は部屋の前に置かれるようになり、風呂は日中父が仕事に出かけ、母が買い物に行く前に「お風呂沸かしたから入って着替えて」と言って出かけてから入浴した。

 

 何をするでもなくひきこもり、一日中布団にもぐっている。


 今日は日曜日で両親は車で出かけていた。

 何時ものように出かける前に「お風呂沸かしたから入って」と言われて風呂に入った。


 風呂上り、2階の自室に入ると信じられないものが目に飛び込んできた。

 隣の家に住む同級生の幼馴染、須藤すどうあやが窓枠に足をかけ身を乗り出していたのだ。

 あわてて駆け寄り窓を開ける。


「!彩音!何してるんだ!」

「え?総ちゃんが引きこもっているって言うから陣中見舞いに行こうかと、」

「来んで良い!つか、来るなら玄関から来い!」

「えーーーーー」


 と言いながらも窓枠から下りてくれてほっとする。


 「万引き」


 彩名が発した言葉にぴくっとする。


「総ちゃんやってないんでしょ」

「僕がやってないって信じてくれるのか?父さんや母さんは信じてくれなかったのに…」

「何年幼馴染やってると思うのよ」


 へへん、と彩音は偉そうだ。


伊達だてに総ちゃんの幼馴染やってるわけじゃないんだよ」

「確かにお互いあれやこれや性格から無用なことまでわかってるよな」

「無用なことって何よ!無用なことって!」

「例えば…」

「わーーー!やっぱいい、言わなくていい!」


 彩音があわてる様が可笑しくて、思わず笑みが漏れた。

 

 ふと、彩音が真顔に戻る。


「総ちゃんにはリハビリが必要だね」

「彩音」

「総ちゃんは今心を休めることが必要だよ。でも覚えておいて、総ちゃんを信じてる人がここにいることを」

「彩音…ありがとう」


 僕の言葉に笑った彩音の笑顔がまぶしかったのは、彩音の顔に日が差していたせいではないのだろう。


「じゃぁね」


 明るくいって、彩音は窓を閉めて僕の視界から去っていった。

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