大人になった夢を見た、私は泣いていた

私は全てを失った。

友人も恋人もプライドも全てを無くしてしまった。

何も残っていないと言うのは分かっていた。

失ってしまう未来が予想できなかったのか問われれば

すみませんでしたと謝ることしかできない。

もう全てが手遅れになってしまった。

最後にドライブにでも行こうそう思い私は車の鍵を手にして外に出た。携帯の解約もしなければなんて思いながら私は車を発信させる

全てが無意味になってしまった、そう思うと心が虚しくなってくる

どんなに頑張ったところで人間どこかで躓いてしまう

おそらくそこでいかに立ち上がれるかが大切なのだろう、立ち上がったら成功者

前に進めなくなりそこで立ち止まったら意気地なし

私のような全てを失い、生きる意味すら見出せなくなってしまった人間は敗者

人生の敗者である、何に負けたかすらわからずだけど成功者には全て負けていて

ああ、こう言うことなんだなと負けていることをいつも実感されられる

そんなことを考えながら車を運転していると河川敷が見えたので車を停止させ川でも眺めることにした。

そこには先客が1人いた、彼女はひどく泣いていた。本当は無視して帰ろうかと思った、だがここで見捨ててしまっては絶対に後悔する

そう断言できた、泣いてる姿が少し自分に見えてきてしょうがなかった

どうされたんですか?と私は声をかけた

彼女は謝りながらなんでもないです。と一言。

なんでもない人が泣いているわけがないと私は言った、本当になんでもないです。と彼女は続けてそう答えた。少し微笑みながらじゃあ私の話をしてもいい?と言ったら彼女は頭をコクンと頷けた

私が体験してきたこの地獄のような10年間をざっくりと自分の感情を込めて15分くらいで話していた。

彼女は話を聞きながら途中で泣き出したり、頷いてくれたりしっかり話を聞いてくれた。

そうして話をし終わると彼女は自分の話をしてくれた。

パパに虐げられた話、病にかかった話、そして唯一の親が消えてしまった話、おとうさんに消えない傷を付けられた話。

「これからどうするかって思うとなんだか泣けてきちゃって私生まれてきてから、いや生まれてくること自体が間違いだったんじゃないかって、両親はデキ婚なんです小さい頃はよく分かってませんでしたが今になったら全部分かります。もう…今死にたいなって思ったんです」なんて笑いながらそう言った


彼女は安堵したのか気づくと寝てしまっていた。

彼女を見ていると酷く悲しい気持ちになった。そうして川を眺めて感傷に浸っていると私も眠くなってしまったのか寝てしまった。


目が覚めると暗くなっており隣には誰もいなかった

全てを諦めてしまった彼女を思い出すとこの世がいかに狂っているかが分かった

産んでくれた事を感謝しましょう

一生懸命働いて世の中に貢献しましょう

家庭を築き、子供を産みましょう

子供には教育をさせましょう

立派な大人になりましょう

立派な子供を育てましょう




立派ってなんなんだよ…どんなに辛い事を体験しても結局それはマイナスに過ぎない

その体験談を話すとよく頑張ったね、立派だねと褒められる

生きていればの話だ、話す人がいればの話だ、立ち直ったから褒められるんだ!

進めなくなってしまった私はどうする。

生きることが辛い、現状が変わったって癒やしない!傷跡は永遠に残り続ける!

人に話すことなどできない!前になんて進めない!



「そう君は考えた訳だ」


そう声が聞こえた、聞き覚えのない声だった。

声の主は私の前に立っていた

高校生くらいの見た目をしており中性的な顔立ちをしていた


「君は彼女を見てどう思ったんだい?」


「やっぱり本当にこの世の中ってクソだなってことかな。」


「ちょっとはこの先に希望を持てたら良かったのに。」


目頭が熱くなって少し視界がぼやけた


「あなたがやったの?今までのは。」


「どうだろうね、僕は君が見たものの全てを知っているだけかもしれないよ」


「夢の内容を知っているより夢を見せたの方が現実的じゃない?こんなことしておいて。」


「それもそうだね、それはそうとして君はこれからどうするつもりだい?」


「うーん、首でも吊って死のうかな、今は死ぬことより生きることの方がよっぽど辛い。」


「何故他の人に助けを呼ばないんだい?死ぬ必要などないかもしれないよ?」


その一言を聞いて私は腕に力が入った


「無責任なこと言わないで……死ぬ必要がないとかそう言う問題じゃないのよ…生きることができないのよ…」

「助けを呼ぶ?呼ぶ声は誰にも届きはしない!友人も恋人も家族も!全て失った、いや元々居なかった様なもの!何も残ってないうちみたいな人間は死んだところで誰にも見向きはされない、生きているなら尚更だ!他の人間に何がわかる!この世の中で私はもう生きていけない体になった!死ぬしかもう道はないのよ!」


「死ぬしか道がない、見えていないだけじゃないのかい?君が見えている道はそれしかなくとも実際はどこかで他の道があることに気づいているんじゃないかい?

そして君1人じゃなく他を頼れば道が増えると言うこともわかっているんじゃないかい?」


「あなたねぇ…分かってること言わないでよ、一番そう言うのが腹が立つ、生きる気力ない人に正論言ってて楽しいですか?例え他の道があると分かっていてもものすごく脆い道そこはそこが安全な道なら今頃歩いてます、人間って生き物は安全な道がいくつもないと生きていけない生き物なんですよ?知りませんでした?だったらあなたはよっぽど満足した生活を送っているんですね。」

「考えて見てください、携帯やPCが壊れたらあなたの中の1日の予定は崩れる1日の生活の中の道が減るとかなりのストレスや苛立ちがあるはずなのに私はそれを人生という何千倍もの大きさで道が減るどころか見えなくなってしまった!それがいかに怖く先の見えないものか!

もうこれ以上は疲れたんです、うちはもう何も望むことも無いんです…。」


「そうか…ならば君はこの夢から覚めたいと言うことか」


「……そうですね…夢にしては長い長い夢でした、ありがとね。」






目が覚めるとそこはベットの上だった。

河川敷で会った彼女はおらず、彼の姿もなかった。




隣には裸のおとうさんが眠っていた。




大人になった夢を見た、私は泣いていた


_________完___________

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