決裂

 何も、思い付かず。

 夕焼け空を、眺めていた。


 「ユウ。御飯の時間だよ」

 「元気出して」

 「妖精の力を、使う奴らなんて。死んで当然なんだから」


 「ありがとう。下に降りるよ」


 励まされながら、下に降りる。


 百人に、挑むなんて事。

 前世なら、考え付くことさえなかった。

 ファンタジー世界で、魔法やチートスキルの物作りで。

 調子に、乗っているからだと思う。

 だけど、このまま放置して。

 迷いの森が、荒らされたり。

 木を切り倒し、開拓されたり。

 魔物が、物のような扱いを受ける事を。

 俺は、認められなかった。


 何とか、皆を守り。

 奴隷達を、救いたい。

 ただ、親切を押し付けてるだけなのだろう。

 でも、決めた事はある。

 百人を退け。

 皆を守り。

 奴隷達を、開放し。

 自由にする。

 俺の中で、決定事項だ。


 夕食は、アーリアさんとユカリさんが作ってくれていた。


 皆集まり、席に付くが暗い感じだ。

 ここで何か、言った方が良いだろうと思い。

 皆を見ると。

 ヒヨが、何か言いたげに俺を見ていた。


 「ヒヨさん?どうしました?」


 「褒めるです!有力な情報です!」


 「何があったの?」


 「教えて欲しいです?」


 面倒臭い。

 有力な情報なら、早く話して欲しい。

 イライラしていると、気付いてないのか?


 「教えて下さいって言うです」


 「サッサと言わないなら、放り出すぞ!」


 自分で思ってる以上に、イライラしていて。

 怒りを、ぶつけてしまった。

 雰囲気が、いっそう悪くなる。

何故俺が、怒っているのかわからずに皆どうしていいかオロオロしている。


 その雰囲気に、耐えられず。

 俺は、逃げるように。

 席を立ち、鉄塔にまた登った。


 明日からの対応に必要な集まりを。

 俺は、メチャクチャにしてしまった。

 大切な時間を無駄にして、鉄塔の上で反省していた。


 その頃、下では。

 ヒヨを、攻めるユカリさん。

 シロとミミは、ヒヨの味方をし。

 それを、宥めるマルとダン。

 シシと、ララは、良くわからない状況に。

 不安になり、泣いていて。

 それを、アーリアが慰めていた。

 マークとスピードは、鉄塔を登ろうとするが、ガイに止められた。

 牛達3名は、誰が上に行くかで揉めていた。


 「静かにしろ!」

 ガドムが叫ぶ。


 「今あいつは、誰の犠牲も出さず。何とかしようと、考えている。甘い事だ。だが、いい案が出ないのであろう。このまま何も、いい案が出なければ。この村に、立て籠もる。ヒヨ!情報とやらを言え」


 ビクッとして、下を向きながら答える。


 「連中の中に、吹き飛ばされた魔物と。村に来なかった、魔物がいて。吹き飛ばされた魔物は、偉そうなのと、話してたです」


 「それのどこが、有力なんだ?」


 それを聞き、ガドムを見る。

 「そいつらが、私達を裏切り。話したなら、それを逆手に取って。裏をかくです」


 ドヤ顔だが。

 「裏をかく?どうやって?」


 「それは、これから…」


 声が小さくて、聞こえない。

 「はぁ〜。ユカリ、その事を鉄塔にいる奴に伝えてやれ。あと、立て籠もるつもりだともな」


 ユカリは、何も答えず鉄塔を登る。



 「ユウさん。ガドムさんから、言われた情報を伝えます」


 そう言い。

 先程の事を、伝える。


 「そっか。ありがとうユカリさん。皆の答えが、わかったよ」


 「いえ。私に何か、出来る事はありませんか?」


 「大丈夫だから。今日はここで、考えたいんだ。ごめんね」


 そう伝えると、ユカリさんは糸を渡してきた。


 「何かあれば、いつでも言って下さいね。きっと、立て籠もれば奴らもいなくなりますから」


 お互いに、お休みと言い合い。

 ユカリは、下に降りる。


 やはり俺は、当てにならないのだろうな。

 ガドムがいれば、皆は大丈夫だろうし。

 俺なんて、いらないだろう。

 ここは、俺の力で見つからない訳じゃないし…

 と、拗ねる。

 悪い方向に、進んでいく。


 「精霊さん。力を貸してくれる?」


 「良いよ〜」

 「何でも、言って」

 「お腹いっぱい」


 前から1人、食い意地が張っている精霊さんがいる。

 その言葉に、癒され。

 冷静になってくる。


 皆の裏切り行為。

 と、勘違いしたままだが。


 「精霊さん。今から来る、人族達100人の所に夜襲をかけようと思う。狼達が、俺達の事を話したなら。見つけるまで、いなくならない気がするし。返り討ちにして、人族の街?に行くのもいいかもしれない」


 「わかったの」

 「人族の街?」

 「反対!」


 よっぽど、人族が嫌いなようだ。


 「村の皆には、嫌われたみたいだし。ここを、離れる事を考えてるよ」


 「嫌う?」

 「勘違いなの」

 「離れるの嫌」


 笑って誤魔化したが、俺の中では。

 人族の街にも、行ってみたかったし。


 まずは、奴らをここから追い返さないと。


 皆が家に、帰るのを待ち。

 鉄塔を、降りる。

 静まり返る村を、眺め。

 今まで、ありがとうと心中で念じ暫らく目をつぶり。

 目を開けると、出口に向かう。

 村を出て、振り返らずに走る。

 夜明け前に、解決してやる!

 そう、決意し。

 ひた走る。


 心細いせいか、たまに。

 精霊達に、話しかけながら。



 その頃。

 迷いの森に向かう、一団は。

 迷いの森入り口で、野営をしていた。

 寝床や食事を、奴隷達に作らせ。

 馬車の中で、人族は休んでいた。


 予想より早いのは、途中で捕まえた。

 クマの魔物2人に、馬車を引かせたからだ。

 逃げた、クマ2人とリスの魔物を。

 狼達が、罠に嵌め。

 再び人族の奴隷に落とした。


 狼達は、吹き飛ばしたユウイチを恨み。

 人族の捜索隊に近づき。

 情報を伝え。

 ユウイチを、殺そうと考えていた。

 今も人族に、媚びへつらい。

 馬車の中で、肩をもんだり。

 褒め称えたりして、奴隷達の中でも。

 自分達が、優遇されるように動いていた。


 今回指揮を、取っているのは。

 ヨーミの父親の座を狙う、ザン伯爵。

 

 バンネス王国では、

 1 王様

 2 王族

 3 公爵

 4 伯爵

 5 男爵

 6 騎士

 7 平民


 と、権力差があり。

 公爵家は、トバー家のみ。

 そこが潰れれば、公爵に上がるチャンス。

 その為。

 どうやって、トバー家を潰そうかずっと考えていた。


 そこに、跡取り息子が行方不明。

 近々、ヨーミの不正を暴露しようと考えていた為。

 捜索隊を結成し、隊を率いてきたのだ。


 そこに、魔物が近付いてきて。

 首輪を嵌めると。

 有力な情報があり、自分達を優遇して欲しいと言ってきた。


 そこに、思えがけない情報が飛び込んできた。

 ヨーミが、殺されたと言うのだ。

 これは、チャンスだ。

 殺した奴らを、手土産に帰り。

 ヨーミの死を伝え、不正の噂を流し。

 責任問題にすれば、公爵になれる。

 そう判断して、浮かれていた。


 そんな状況の所に、ユウイチは迫っていた。

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