名付け

 目の前に、美しい女性がいる。

 下半身は、蜘蛛だけど。

 上半身は、裸だけど。


 「自分の事はユウイチとお呼びください。私には、わからないのですが。この世界に妖精と言う存在はいるのでしょうか?」

 「妖精!とは、精霊とは違うのでしょうか?ただ、まずお聞きしたいのは。何故私の言葉がわかるのでしょうか?」


 「?普通は、わからないのですか?」


 「基本魔物の言葉は、人族に伝わりません。私は、人と戦う意志は無いのに攻撃してくるので逃げてばかりです。が、話しかけた事はあります。他の魔物からも伝わったと、聞いた事がありません。貴方は、神様ですか?」


 「神様?違いますよ。他の世界から来た。まれびと?異世界人?とか、聞いた事ありませんか?」


 「私はありません。人なら、わかるのでしょうか?あと、貴方は魔物を怖くないのですか?」


 この世界は、他に転生したり。転移したりする人は、いないのだろうか?

 いても、バレないようにしてるとか?

 人なら、わかるのだろうか?

 わからないものは、仕方ない。


 「他の魔物なら、怖かったかもしれませんが。貴方が怖いといった事は、感じません。精霊さん?が連れてきた方ですし。もし良かったら、家の中で話しませんか?」


 「よろしいのですか?ユウさんは、変わってますね。では、お呼ばれ致します」

 ユウさん?でも、彼女の呼び名がないと困るな。

 やはり名前が無いと。

 とりあえず、お茶?お菓子?

 最近は、調味料が欲しいなと独り言を言ったからか、調味料も増えて。

 砂糖のお陰でお菓子も作れるし、飲み物はフルーツ100%ジュースにしよう。


 椅子に、自分は座るが。

 彼女は、足がいっぱいあり。

 椅子を使わず座っている?

 「椅子には、座りづらいですか?」

 「お気になさらず。大丈夫です」

 「所で、名前が無いと話しづらいし。名前を決めて頂けないでしょうか?」

 「私が決める事が出来ません。出来たら、名前を下さいませんか?」

 「宜しいのですか?ネーミングセンス無いですよ」

 「ネーミングセンスがわかりませんが、お願いします」

 困る。名前なんて決めた事…ゲームならあるのか!

 ヒロインの名前を決める事が、出来る奴もやった事あったし。

 とするとアレかな?でも、蜘蛛さんだし。

 他の名前が良いかな?

 「名前の候補が、ユカリとクイーンとイトの3つあります。気に入ったのは、ありますか?」

 「そうですね。どれも魅力的ですが…ユカリで宜しいでしようか?」

 「わかりました。これからは、ユカリさんと呼ばさせて頂きます」

 すると、何かが繋がった気がした。

 「あの~。これって名付けで、何かあるのでしょうか?」

 「聞いた話なのですが、認めた方から名前を貰い。それを受け入れると、家臣になれる。なんて話を聞いたことがあります」

 家臣?奴隷じゃないならいいのかな?

 初めての、異世界での接触者。

 仲良くしたいと思うし。

 あ!ジュースとお菓子忘れてた。

 「チョット、待ってて下さい」

 と、地下室に行き。

 作り置きしてある。

 ジュースと、クッキーを取りに行く。

 ここは、時間停止まで行かないかもしれないが。

 食べ物が、腐った所を見たことが無い。

 素晴らしい地下室!


 「お待たせしました。お口に合えばいいのですが」

 「これは!美味しい。ありがとうございます」

 嬉しそうに食べる姿を見ると、作った自分も嬉しくなる。

 「精霊様は、私の願い。服を作る為に、ユカリさんを呼んでくれたんだと思います。ちなみに服を、作る事はできますか?」

 「服?ですか?やってみないとわかりません。どうすればよろしいですか?」

 「必要な物は、布、針、そして糸になります」

 「糸ならすぐに」

 と、立ち上がるとベッドまで歩き。

 ベッドに背を向けて、オシリ?から白い糸を出し始めた。

 すると、あっという間に大量の糸が山盛りに!

 「凄い!この糸を太くする事も?」

 ユカリは、そこから少しづれてまた白い糸を出す。

 今出たのは、糸と言うよりか紐かな?

 毛糸より太い気がする。

 「ユカリさん。いっぱいありがとう。疲れてない?大丈夫?」

 「これくらいなら大丈夫です。ただ1日に出せるのは、この量を百回位でしょうか?」

 「十分です。出来たら、糸を頂いてもよろしいですか?ユカリさんの服も作りたいです」

 流石に裸はまずい!主に俺の下半身が!

 「服?とはなんですか?」

 「人間を見たことがあるなら、布をまとっていませんでしたか?とりあえず、思いつくのはセーターかな?」

 糸だけじゃ服を作れないだろうし、太い糸なら棒2本使えば作れるかな?

 昔、母親が作ってるのを手伝った事もあるし。

 「私の服ですか?着た事がないので、わからないのですが?糸ならいくらでもどうぞ」

 「ありがとう」

 さて、丁度いい棒を外の枝で作り。

 ユカリさんのサイズのセーターを、思い浮かべて作ろうとすると。

 凄まじい速さで出来上がる!

 あれ?なにこれ?凄いを通り越して、怖い。

 「出来たのですか?」

 と言われ、我に返る。

 「出来ました。着てみてください」

 「着る?ですか?こうですか?」

 「ユカリさん、チョット失礼しますね」

 前屈みになって貰い着せる。

 俺の身長が、だいたい170センチ位なら。

 ユカリさんは、200センチは超えてるんじゃないだろうか?

 「これは、温かいですね」

 気に入ってくれたようだ。

 そうだ、鑑定してみよう。

 ユカリさんを、鑑定してみたが何も出てこない?

 人物は、鑑定出来ない?レベルが足りない?

 情報が少ない。

 やはり、森?から出て人と接触する必要があるのかも知れない。

 裏切られるのは、怖いけど。

 でも、ここで一人スローライフする。

 それが、望みだったし。

 ここにいようと新たに決意する。

 「ユカリさんの家は、近いですか?」

 「私の家は、糸で出来ていますがこの森は、迷いの森。すぐにわからなくなるので、寝る場所が家ですね」

 「帰れない家ですか?大変ですね。もし良かったらここに住みますか?無理にとは、言いませんが。食事も用意できますし」

 普段の俺なら、こんな言葉は出ない。

 が、久々に話ができた事や、一人で過ごして寂しかった事、出会えた嬉しさから、出た言葉だった。

 「よろしいのですか?私のような魔物と?」

 「構いませんよ。感ですが、ユカリさんは安全だと思うんです」

 「これから、宜しくお願いします」


 新たな住人が増えたのだった。

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