第14話 絶望
一瞬、時が止まった感じがした。
目の前の光景が信じられない、いや、信じたくない。
「フィリアっ!!!」
デウスがそう叫んだ先には、アシッドタイガーに左肩から右腰の背中を爪でえぐられ倒れる瀕死のフィリアの姿があった。
「……っ」
フィリアは自分が死の淵に立たされていることを自覚した。
背中から流れる血はうつ伏せで倒れている自分の周りの雪を赤く染めながら溶かしている。……出血が多すぎる。
(もう……これはダメね……)
思えば、つまらない人生だった。領主の『従者の』娘。ただそれだけの理由で領主の息子たちには何も逆らえず、何をされても言いなりにするしかなかった。嫌がらせを受けても、殴られても、辱めを受けても……。
それが自分の人生だと、そう諦めていた。
そんな時だ。唯一自分を従者の娘ではなく『フィリア』として接してくれる領主の息子、デウスが家を出ると話してきたのは。
デウスと一緒に、このつまらなく希望のない生活から抜け出したかった。フィリアとして大切にしてくれるデウスの力になって、横を歩いていたかった。
「まだ……やだな……もっと一緒にいたかったなぁ……」
ごふっ……と血を吐きながらフィリアは薄れゆく視界の中で愛する人を見た。
霊力の消耗で動けないデウスは今……アシッドタイガーに投げられ、引っかかれ、かじられ……完全に遊ばれなぶり殺しにあっていた。
(そんなっ……ダメっ! デウスだけでも生きてっ!!)
フィリアは最後の力を振りしぼりデウスに両手を向ける。
「慈しみ深き慈母神よ
我が愛に応え かの者に安らぎを与えよ
桃色の魔法陣から柔らかな光が放たれ、優しくデウスを包んだ。
デウスの傷は塞がり、血も止まった。そのことを確認し安心したフィリアは……
「デウ……して……わ…… あなた……きて……」
涙を流しながら何かを口にし、それきり動かなくなった。
デウスはフィリアがやられてから放心状態だった。後悔と悲しみに打ちひしがれ、アシッドタイガーに何をされても痛みすら感じなかった。生きる気力を無くしていた。
そんな時だ。フィリアから優しい光が送られ、傷が癒え幸福を感じた。
(フィリアが生きている!)
そう喜んだデウスはフィリアの方を振り返る。
「デウス……愛してるわ。あなたは……生きて」
声はかすれていたが、確かにこう言っていた。そのままフィリアは動かなくなった。
「フィリアっ!!!」
ドクン……
デウスは自分から何かが湧き上がるのを感じた。
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