第15話 愛よりの憎悪


(フィリアが……死んだ……?)


 到底受け入れられない現実が目の前にあった。


 デウスにとっては唯一の理解者。初めて心を許した人であった。千松の立場であっても、前世からの心の闇を照らし救ってくれた大切な人。


 目の前のフィリアを見たデウスは自覚した。

 デウスはフィリアを愛していたのだ。

 愛するフィリアが殺された。誰に? 何に?

 答えは明白だ。

 こいつ……アシッドタイガーだけは許さねぇ。





「絶対に殺してやる…………」





 デウスは自分から何かが湧き上がるのを感じた。

 デウスから白い光が広がり、まるで白い炎のようであった。

 いつもの霊力とは桁違いの濃さである。

 尽きかけていたはずの霊力がどこからこれほど湧き出てきたのか。そんなことはデウスにとってどうでもよかった。


「グルルル……」


 アシッドタイガーはデウスの変わりように本能的に危険を察知し、距離をとって威嚇している。


 今のデウスの霊力は膨大だ。『死ね』という言霊は膨大な霊力を消費するが、恐らくまかなえるだろう。


 しかしデウスはそうしない。なぜか?


(お前への憎しみを一言で片付けてたまるか)


 ただその一心だった。フィリアを殺した。自分の大切な人を殺した。そんなやつを簡単に殺してたまるか。


 この憎い敵を魂すら残さず消し飛ばす。そんな方法は……







「神主様、我々はただ神に仕えているだけのただの人間として生きているだけなのでしょうか?」

「千松よ、急にどうしたのだ」

「いやぁ……神さまを崇め奉って神に仕えるものとして生きてきましたが、その……これといっていい事が無いなと……」

「ほぉ、神頼みというやつか。そのような浮ついた気持ちで我が神々に仕えていたのか? 千松よ」

「そ…そんな滅相な! 今の発言は忘れて下さいませ!!」

「はっはっは! ちとばかりからかいすぎたのぉ。そうじゃなぁ……我々は神に仕える身だが、それにより神々から受ける恩恵も他の人間とは比べ物にならないのじゃぞ?」


 そうなのか? そんな気はしないが…と千松は首を傾げる。


「その恩恵のひとつが『神懸りかみがかり』。最終的には神の尊き御霊(みたま)自体を自身に宿すのだが、まだ千松には無理だろうのぉ。だが、一時的に神の力を借りるのならば千松にも出来るだろう。ただそれには生命力…つまり寿命を代償にするから、あまり勧めんがのぉ……」





 寿命を代償にする? 本物のデウスはもう死んだし、千松ももう死んでいる。どちらにせよ死んでいるのだ。気にする事はない。


 こいつさえ殺せればなんでもいいのだ。


 そう決意したデウスの右手は、握りしめた拳から血が流れていた。

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