第12話 慢心の後悔


「アシッドタイガー!? ……ってなんだ? 強そうな名前だなぁ!」


 自分に霊力を扱えることがわかったデウスは目を輝かせている。フィリアの作戦通りなら何にでも勝てる気がしているのだ。


「何言ってるの!? 早くここから逃げるわよ!! 2人とも殺されちゃう!!」


 フィリアは今までに見た事の無いような剣幕で叫んでいる。


「そ……そんなになのか?」

「当たり前でしょ!! 3メートル以上の身体をしているのにファストキャットくらい俊敏に動いて鋭い爪と牙で引き裂いてくるのよ!!」

「それならさっきみたいに動けなくすればいいんじゃないか?」


 フィリアの顔が引きつった。その表情にはいら立ちが現れている。それを悟ったデウスは少しだじろいだ。


「アシッドタイガーの怖いのはそれだけじゃないの……。アシッドタイガーの唾液には強酸が含まれていて、かかりでもしたらみるみる溶けちゃうの!! さっきのファストキャットも動きは止めても鳴くことは出来たじゃん! だからアシッドタイガーの動きを止めたところで咆哮で唾液が飛んできたら終わりなのよ!!」


(それはなんとも理不尽なくらいの脅威だな……でも離れた場所から攻撃すれば……)


 ここまで言われてもデウスは未だに渋っている。初めて来た世界で、もっと多くの生き物を見てみたい。前世で神社や山奥など自然の多いところで暮らしていた千松にとって、フィリアの説明する生き物がどんなものか好奇心が沸いていたからだ。


「とにかく逃げるわよ!! ほらっ!!」


 フィリアが手を差し出す。しぶしぶデウスが手を取ろうとしたその時だった。


「ググァァ!!!」


 アシッドタイガーが手と手の間を遮るように飛びかかってきた。2人は咄嗟に避けたものの…


「いっ……」

「きゃあ!!」


 アシッドタイガーは二人の手をめがけて飛びかかってきたため、2人は牙は避けたものの唾液を浴びてしまった。


(これは……まずいっ)

「治れっ!!」


 デウスはとっさに言霊の力で自分とフィリアの治療をした。酸は一瞬で消え傷も治癒した。その結果として……


「ぜぇ……ぜぇ……」


 2人分の言霊を使った。つまり状況としてはウーヌスとデュオに使ったのと同じ程度に霊力を消費した。デウスの霊力はあとわずかだ。


「デウスっ!!」


 フィリアが駆け寄ってくる。……が、それをアシッドタイガーが間に割って入ってくる。


(本当に甘く見ていた。フィリアの言う通り、すぐ逃げておけばこんなことには……)


 デウスは激しく後悔した。前世からの自分の力がどういうものなのかに気づき、フィリアには魔法がある。だから何が来ても大丈夫だ。そんな慢心に呑まれ自分だけではなくフィリアまで危険に晒してしまった。


(せめてフィリアだけでも……)


「フィリア! 僕を置いて逃げろ! 僕がやられている隙に逃げるんだっ!!」


 デウスはそう叫んだ。それは紛れもなくデウスとして、そして千松としての本心からであった。

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