第4話 言霊の力

「フィリアに触るな!!」


 あまりの声の大きさと迫力に、手を伸ばしたデュオだけでなくウーヌスとフィリアも驚いて固まってしまった。


「うるせぇんだよくそデウスが! 邪魔すんじゃねぇ!!」

「がっ……」


 ウーヌスがデウスを蹴り飛ばした。それを見たデュオは改めてフィリアに手を伸ばす。


「ほら、あんなやつほっといて早く行くぞ!!」

「嫌っ! 来ないでっ!! もう私に触らないでっ!!」


 嫌がるフィリアのことなどお構い無しにデュオがフィリアの手を掴もうとした、そのとき……


「パチン」


 何かが弾けた。驚いてデュオは後ろに飛び退く。

 一瞬戸惑ったものの、兄弟はフィリアが何かしらの魔法を使ったのだと勘違いをした。


「フィリアてめぇ何しやがった!!」


 今度はウーヌスがフィリアを殴った。……はずが、直前でまた何かが弾けウーヌスの手は空を切った。


 そのとき、蹴飛ばされたデウスから声が聞こえた。


「もういいよ……お前ら、もう動くな。ここでの事は忘れて寝ていろ」


 フィリアに触れるなと言った時よりも多く、濃くて白いもやもやが吹き出る。同時にデウスはどっと疲労し息を切らしはじめた。


「はぁ……はぁ…… 早く行こう、フィリア」

「ちょっとこれ……どうなってるの……?」


 フィリアが驚くのも無理はない。先ほどまでピンピンしていたウーヌスとデュオが突然動かなくなり、パタパタと倒れていったのだ。


「今は何が起きたのかは後で説明するから。とりあえず今はここから離れよう」

「それも……そうね」


 フィリアは納得はしていないものの、先を急ぐことには同意しデウスと共に屋敷を後にした。冬の空は澄んでおり、星は日ノ本よりも煌びやかだ。白く積もった地面を踏み固め走る2人の足跡は、これからの2人の波乱万丈な人生へと続いているように思えてならない。






 屋敷を抜け出してはや1時間。

 屋敷を出てすぐの森の中深くにある綺麗な湖のそばで休憩を挟むことにした。夜で鳥も寝ており、虫も冬の土の中で眠っているようである。無音ともいうべき静かな空間に、デウスの息切れの音だけが大きく聞こえる。兄たちとの一件からデウスの息切れが止まらないのだ。


「……デウス。改めて、さっきのはどういうことなの?」

 疑心の目。その目の奥には恐怖すら見える。


(またこの目だ……)

 私は前世の苦い記憶……神官の千松として生きていたころの記憶を思い返していた。

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