縺輔″縺ォ縺ゅk縺カ繧薙″

あいえる

縺輔″縺ォ縺ゅk縺カ繧薙″



 『プロキオン』『シリウス』『デネブ』


 確かそんな感じだったように思う。こいぬだなんて可愛い響きの星座もあるんだっけか。


 淀み濁った記憶の沼にわざわざ手を伸ばしてしまったのは、こうして久しぶりに夜空を見上げてしまったからだろうか。


 思い出よりも霞んで見える星たち。私の視力が落ちてしまったとはいえ、こんなにも遠くそして小さな輝きだったとは。


 彼らよりもずっと綺麗で大きな光を知ってしまったからなのだろうか。それとも、彼らよりもずっと醜くてカスみたいに小さい灯を知ってしまったからなのだろうか。


 いや、もっと単純な話か。


 ただ単に私自身がロマンティックな夜空に幻想を馳せるに至らないゴミ屑に堕ちてしまっただけだろう。


 薄雲に陰ることにすらイラつきを覚え、そして月明かりにすら鬱陶しいと鬱憤を吐き捨てる。


 勝手に近づき遠ざかっていくエンジン音は私への抗議に聞こえ遥か先に響く少年少女の笑い声は私自身を嗤っているかのようにさえ聞こえ。


 凹んだ壁を見る度に思い出す痛みはいつも鮮度の良い暴れる栄養を訴える食物の輝き。


 眩しすぎる羨望の目はドロドロに腐り切った私の心をより腐らせていくのに、腐った後のことなど誰も掃除する気もない。


 便器を舐める虫がいるとするならば、今の私はまさにそんなモノなのだろう。


 他者にどう見えているのかなんて関係ない。私がそうだと言えば誰がなんと言おうとそうなのだ。


 黒くて苦い大人ならば誰しもが飲むものだと思っていたガキの妄言に付き合い切れずに捨てたのは誰だったのでしょう。


 勿論私。


 恋を詠った教科書の中の人の狂気に触れた狂人の行く末を知っていたのならば、なんて思考実験は磨り潰した煙草の火の匂いを嬉々として楽しむくらいに勿体のない時間の使いかた。


 かつての純潔を望んだところで汚れたものが浄化されるわけでもない。


 価値のない一瞬が振り返ればどこぞの墓に埋められている宝物ほうもつに早変わり。そんなものだ。


 私なんて木偶人形に比べてもまだ下の彫り物にすら成り切れない苗木以前のタネにすらにも届かない。


 下を見れば次には上を見たくなるものなのだろう。


 こうして魅るあの一点はどこまでも私を否定する。


 君はあんなものを美しいと語った。


 君はあんなものをもっと知りたいと狂ったように語った。


 交じる指を捻じり折っていたら何か変わっただろうか。その、爛とした瞳を潰してしまえば何か変わっていたのだろうか。


 何処へ行くの。私の言葉なんか聞こえていなかったのだろう。


 帰ってくるよね。私の傍なんかよりも魅力のある何かを見つけたのだろう。


 何かに呼ばれたかのように飛び出していった君。何がしたかったのかなんて分かるわけもない。知りたいと思っても、その手段が無い。


 足の裏を舐めるガラス片にすら愛おしさを感じるのは、既に私が肉体を捨て精神にもたれているからなのだろう。


 物語に没頭する鼠が罠にかかるように。海を渡る陽が最期には落ちていくように。混じり切ることのないぬるま湯を甘んじて流す喉を裂くナイフのように。


 目の前で起きた光景を信じるには、それがあり得ないもので幼児が語る意味の無い言葉の羅列を信じるしかなくて。


 五月蠅い。


 こんな時間に誰なのか。


 鳴る。


 山を貫通するトンネルに手を通すには十分すぎるくらいの砂は、一体いつからそこにあったのか。


 覗き見えるのは気持ちの悪い顔。おっさん。金に物を言わせて身体を買うんだろう。そんな顔だ。


 誘ってもない。呼んでもない。望んでもない。頼んでもない。


 どうせ私も買うつもりで訪れたんだろう。


 手に持つ袋には私を堕とすためのあれやこれが山盛りなんだろう。


 見られているのが分かったのか。札を揺らし札束を鳴らし。


 盛り上がるものを隠そうともしない下種の相手をしろとでもいうのか。


 そうなんだろう。


 すぐにでも連絡をすれば然るべき対応をしてくれるお兄さんが来てくれる。


 でも、そうはしない。


 面倒が臭い。ドブ底に溜まったヘドロを鼻に突っ込まれたのと同じ匂いだ。


 放っておけばあきらめるだろう。ドアを壊した先に転がる都合の良い穴に夢中の自称絶倫との遭遇は二度目だ。


 その時は君が頑張ってくれたけど、だったら私でもできる。


 ああ嫌だ。こんな時にすら思い出すなんてこびり付いて離れない鍋の焦げくらいに嫌だ。


 今まさに破壊に挑み始めた音を背後に部屋に戻る。


 助けてくれ。


 そう叫んだら、戻ってきてくれるだろうか。


 君なんかより。


 そう悦んだら、戻ってきてくれるだろうか。


 泣いていたら心配してくれるだろうか。


 喘いでいたら颯爽と救いに来てくれるのだろうか。


 こんなにも辛いのだと、私の全てで主張していれば慰めに来てくれるのだろうか。


 ――――。


 ……あれ…………?


 なんで私倒れてるんだろ。


 なんで、服キてないんだろ。


 こんなんじゃ君にオコられちゃうな。カゼひいちゃうって。


 あれ、なんれわあんないんらろ。


 あえ……? おもらしらんれこどおみらい…………。


 ……。


 …………。


 ごめんね。なんか寝ちゃってたみたい。


 いつ、帰ってきたの?


 鍵、開けてたっけ。


 ん、大丈夫って何が……?


 分かんないならいいって、変なの。


 ねえ、ちゃんと説明してくれる?


 ああ、でもいいや。それ聞いちゃうとまた行っちゃいそうだし。


 何か、暫く会ってない間に逞しくなったね。


 ……あの、やっぱり一個聞いても良い?


「君、生き返ったの? それとも、私が死んじゃったの?」


 ……。


 もう、そんなに抱きしめてくれたって誤魔化されないんだからね?


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