意見→彼女の考え方


「嵐、あなたの意見も聞かせなさい。男としての考えをこの頭と乳でっかちに聞かせてやるのよ」


「えぇ……? 僕、姉さんの作った料理を山ほど食べさせられて、ダウン中なんだけど……? 出来たら放置してほしいんだけどな……」


 涼音に対してぐったりとした力のない声で応えたのは、彼女の双子の弟である鬼灯嵐だ。

 姉と同じ銀色の髪を陽光に煌かせながら、満腹のあまり具合が悪くなっている彼が物憂げな表情を浮かべるも、姉である涼音は一切容赦することなく、嵐に詰め寄る。


「いいから、聞かせなさい。私とこの牛乳うしちちのどっちの肩を持つの?」


「お前、さっきから好き勝手言い過ぎじゃないか!? 誰が牛乳だ!」


「ああ、お願いだから騒がないでください……吐く、リバースしちゃいますから……」


「なら、とっととあなたの意見を聞かせてこの話し合いに決着をつけることね。さあ、早くしなさい」


 姉の手料理の味見役(実験台ともいう)にさせられた嵐は、有無を言わせぬ涼音の迫力に泣きそうな顔になりながら溜息を吐いた。

 やよいとこころがそんな彼へと同情の眼差しを向ける中、自身の安息のために奮起した嵐が男子として、自分なりの意見を述べる。


「……僕はどちらかというと栞桜さんの意見を支持するかな。やよいさんと蒼さんの関係なら、の話だけど」


「ほら見たことか! 誰の恋愛観が化石並みだって!?」


「ああ、嘆かわしい……! 嵐、あなたはいつからそんな姉不孝な弟になったの? この大きな胸に誑かされて、自分を見失った?」


「別にそんなわけじゃあないって……僕は僕なりの考えがあって、うぷっ……!!」


 お墨付きをもらって堂々と胸を張って得意気になる栞桜と、そんな栞桜の大きな胸をぺしぺしと叩きながら恨みがましい視線を向ける涼音の姿を目にした嵐が込み上げた吐き気に顔を青ざめさせる。

 そんな彼を気遣いつつ、話を終わりに向かわせようとするこころは、加熱する2人の話し合いの合間を縫って、彼へと自分の意見を述べるよう促した。


「それで、どうして嵐くんはそう思うの? 折角だし、全部話してみちゃいなよ」


「ええ、まあ……確かに蒼さんとやよいさんは長い付き合いですけど、それはあくまで幼馴染としての付き合いじゃないですか。上手く言えないんですけど、その……恋人になったら、これまでとはまた違った関係になるわけで、今までしてきたこともまた別の感じ方というか、見方をするようになるんじゃないかな、って……」


「う~ん、なるほど……確かにその通りかもね。友達と2人で出掛けるのと、恋人と2人で出掛けるのでは、感じ方とかが全く違うよね。まあ、私たち彼氏出来たことなんてないから、はっきりとはわからないんだけどさ」


 嵐の意見を肯定しつつ、フォークに突き刺したウィンナーを頬張ったこころが頬笑みを浮かべながら言う。

 ただの幼馴染と、そこから1歩発展した恋人という関係の違いは細やかなようでいて大きく、その差はお互いの感じ方にも影響を及ぼすのではないかという嵐の意見には、女性陣も概ね同意しているようだ。


「要するに、恋人にならなくちゃ何も始まらないってことでしょう? それは確かに、その通り」


「蒼がその手順を踏まずに手を出すような男なら、例えおばあ様が何を言ったとしても私は許さんからな!」


「言い換えれば、しっかりと告白してお付き合いを重ねていけばいいってことではあるんだね。でも、まあ、問題は――」


「告白なんて無理だよ、無理。あの蒼くんが、そんなこと出来る訳ないじゃん!」


 かっかっか、と笑うやよいはどこか他人の話をしているようだ。

 そんな彼女の反応にも慣れた様子のこころは、意地悪く笑うとこんな質問を投げかけてみる。


「やよいちゃん的にはどうなの? 蒼くんが告白してくるまで、待ち続けるつもり?」


「ん? う~ん……どうかな? 今はあんまり周りにいいな~、って思う男の人がいないからなんとも言えないけどさ、蒼くんがもたもたしてる間にいい人が現れたら、そっちに目移りしちゃうかもしれないね!」


 やよいの答えに、おおっというどよめきを上げた3人娘が顔を見合わせる。

 これが本気か、あるいは何かの冗談かはわからないが、少なくともやよいが自分から告白をするつもりはないということを感じ取った彼女らに向け、やよいは更にこう続けた。


「蒼くんがこのまま幼馴染でいたいっていうのならその意思を尊重する! そうじゃないならその時にそれを検討する! ただそれだけの話だよ。何も言わないってことは幼馴染のままでいたいって意味なんだろうし、なら、あたしが誰と付き合ったって自由なわけじゃん? その時になって後悔したとしても、! ってやつだよね! にゃははは!」



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