4.異変

リリーの髪は、木を薄く削って太陽に透かしたような柔らかな色をしている。その髪色とは対照的な青々とした葉のような緑色の瞳は、神樹に選ばれた者の特徴だった。


一方、ランバーの髪は枯人のように濃い茶色をしていて暗いところでは黒髪に見えた。なのに目は新芽のようにみずみずしい色で、緑というよりは黄緑色に近い。


リリーと初めて出会った薄暗い道の中で、かすかに入る光に照らされるリリーの髪が揺れていた。


くるり、と軽快に回ってこちらを向いたリリーはさっきとは反対にランバーに近寄ってきた。


「ねえ、ランバー」


ランバーより少しだけ背の低いリリーが囁くように言った。


「最近、神樹の様子がおかしいの。前みたいに話しかけても囁いてくれなくなっちゃったんだ……」


目の前で肩を落としたリリーを見て、そしてその上にかすかに見える神樹の葉を見上げた。


リリーがおかしいと言った神樹はいつもと同じようにこの国を覆っている。分厚い葉が風に揺らされて、時々その向こうにある太陽が顔を出す。


おそらく、この国の誰も神樹がおかしいなどとは思っていないんだろう。

ランバーも父から何も聞いていなかった。


「ジョルヤキツ様は、何て?」

「お父様には言ってないの。まだ」リリーは首を振る。

「リリー。神樹に一番近づける君がおかしいと感じるなら、早くジョルヤキツ様に相談した方がいいよ」


この国で神樹により近くことができるのは、神樹に祝福されたリリーたちしかいない。

リリーが枯人によってジョルヤキツの元にやってくるまで、神樹を守ってきたのはリリーの父だ。一番神樹に詳しい。


「私だって、そんなこと分かってる。でも、何だか凄く不安なの。私たちは一番神樹に近いわ、祝福されているもの。でもそれとは反対のランバーに相談したかったの」


俯いて話すリリーは、自分の手を力強く握った。少し震えている。


「僕は……。何とも思わなかったよ。昨日、父さんについて行ったけど、何も無かったし父さんも何も言わなかった」


リリーは少しほっとしたようだった。そうだよね、と独り言を呟く。


「うん、じゃあ大したことないのかも。もしかしたら、ちょっとだけ機嫌が悪いのかも」

「まあ……神樹にも意識はあるみたいだから、そういうのもあるのかもね」

ランバーが怒った真似をすると、リリーは声を上げて笑った。


「でも、ジョルヤキツ様には相談した方がいいよ。祭祀を執り行えるのはジョルヤキツ様しかいないしね」

「うん。そうする」


くるりと回るリリー。


「やっぱり、ランバーに話して良かった!ほんとはお父様たちみたいに相容れないみたいなのにね。私とランバーは違うみたいだね」

息遣いが分かるぐらい近づいてきたリリーは、ランバーにそう言って片目をつむった。

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無題 金城 佳世 @sbfxlmr07

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