第65話

「自分の一族がした行いも忘れたかッ!」

「な、何を?」

 西園寺さんはいきなり叫んだ瑠夏のような何かに困惑する。

「忌々しき一族め。ならば知れ。貴様らの先祖何をしたのか」

 瑠夏のような何かはそう言って語りだした



 日本に存在する財閥、名家は昔ながらの強力な呪物を持っていた。それを使い、自分たちの好きなように振る舞っていた。

 しかし、西園寺家の一族は新興の企業だった。それ故に他の企業が持っているような呪物は持っていなかった。それ故に自分たちの手で作ることに決めた。

 不当な扱いを受けていた部落の一族に目をつけた。

 そして、不敬にも神であった我にも目をつけ────

 我を罠に嵌め、捉えた。

 ここで人体実験を始めた。

 最強の呪物を作り出すために。

 まず集めてきた部落の一族の人間を『蠱毒』の要領で暗い地下室に閉じ込め、戦わせた。

 そして生き残ったのは蛇蝎の一族だった。

 彼らは次の実験に移った。

 西園寺家の人間は忌々しいことに神である我の力を人間である蛇蝎の一族に宿そうとしていた。語るも憚れる悍ましい人体実験の結果。完成した。

 神の力を宿した一族が。

 『蠱毒』により、異常な怨念をその身に宿し、呪力を蓄えた一族は度重なる人体実験の結果。我の力に適応した。

 この人体実験により、幾数人もの蛇蝎の一族は死に、我はほとんどの呪力を失った。

 我は蛇蝎の人間に寄生することでしか生きることが出来なくなった。

 我は決意した。復讐を。愚かにも不敬な人間への天罰を。

 手始めに我は蛇蝎の一族を掌握することにした。

 我が干渉しやすいのように、こやつの一族の血を濃くするために近親相姦を繰り返すように洗脳した。西園寺家の人間を油断させるためにこやつの一族に西園寺家への狂った忠誠を植え付けた。我はこやつの一族のすべてを縛ってやった。

 全ては西園寺家への復讐のために。



「そんな……」

 それを聞いて、西園寺さんはショックを受けたような表情を浮かべる。

 ……あいつの人間らしさのなさはそこから……。

「そして、ときは来たのだ。天才が産まれた。我が干渉しやすい個体だ。すべての条件が揃っていた。我はこやつ以降産まれてくる子どもに洗脳は仕掛けなかった。必要がないからだ」

 なるほど。神奈は洗脳を受けていなかったのか。それ故に瑠夏とは違ったのか。

 一番蛇蝎の一族で若いのは神奈で、その次が瑠夏なのだと、瑠夏の口から聞いた。

「我はこやつに寄生した。徐々に徐々に洗脳を緩めた。こやつが自分の意識を取り戻せば取り戻すほど、洗脳が外れば外れるほどこやつの魂に隙間が生まれ、我の意識を潜り込ませていった。我の意識がこやつの意識を蝕み、我はこやつの身体をのとったのだ」

「なっ!」

 俺は驚愕する。

 瑠夏を、のとった?

 いや!そんなはずがない!瑠夏がそんなにも容易く負けるはずがない!

 必ずいる。瑠夏が残っているはずだ。

 祓え。祓え。祓え。

 こいつを瑠夏から追い出せ。

 俺は懐から御札を取り出す。

 覚悟を決めろ。

 俺は一歩を踏み出した。

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