第64話
「なんでよ!誰も知らないの!」
「知らないわよ!あなたは!」
「なんで…なんで……お兄ちゃん……」
俺は困惑し、発狂し、混乱している三人を眺める。
その理由は簡単。
瑠夏がいなくなったのだ。
当然のことだった。
朝起きたら、瑠夏がいなくなっていた。
瑠夏はいつも、どこかに出かけるときは三人の誰かしらと一緒で、一人で出かけるときも、必ず誰かに出かける旨を伝えるし、誰もいなかったとしても伝言を残す。
だが、今回は誰も何も聞いておらず、伝言も残っていなかった。
「大丈夫かな……」
俺の隣に座る美奈が心配そうな声を上げる。
「大丈夫だ。必ず」
瑠夏はつえぇ。
あいつになにかあるはずがない。ただ少し、疲れて出ていちゃっただけだ。
だから、俺が一番に駆けつけてやるのだ。
あいつの親友として、三人に言えないようなあいつの悩みを聞き苦労を理解し、支えてやるんだ。
それが、俺の親友としての役目だ。
ブー
俺のスマホが振動する。
俺は急いでスマホに送られてきたメールの内容を確認する。
俺の一族はここら一帯を占める陰陽師の家系。
遥か昔から呪い関係のものを対処してきた一族。
それ故に俺の一族のパイプは太く、瑠夏一人探すことくらい容易い。
「……山?」
メールには瑠夏がここから近い曰く付きの山に向かっていたということが記されていた。
曰く付きの山。怨霊を見たなどの噂があり、密かに地元の心霊スポットとなっている曰く付きの山だ。
入ればたちまち気持ち悪くなり、意識が朦朧としてくる本物の場所だ。
何故……そんなところに?
「山?もしかして曰く付きの山!?」
山と呟いた俺の発言に神奈が反応する。
「あ、あぁ。そうだが」
「私!どこにいるかわかった!」
神奈はそう叫び、家を飛び出した。
「ちょっと待て!」
俺らは神奈の後を追って家を飛び出した。
■■■■■
「この山にはうちの一族が所有している屋敷があるの。ボロボロで、怖くて普段誰も近づかないんだけど……きっとお兄ちゃんに何かあるとしたらそこだと思う」
俺らは神奈の後について歩いていく。
それにしてもここはひどいところだ。
嫌な淀んだ空気が粘ついている。
あまり気持ちの良いものではない。
しばらく歩いていると、一つのボロボロの屋敷が見えてくる。
「ここ」
神奈はぼろぼろになった門を開き、中に入ってくる。
俺は背筋に何か凍るものが走る。
「開けるよ」
神奈は玄関の扉を開け、中に入った。
─────瑠夏はすぐに見つかった。
「よくぞ。来たのぅ。小娘共」
中はよくテレビで見るような広い中世の屋敷に少し似ていた。
ただし、ほこりがたまり、ボロボロだが。
部屋の中心に瑠夏はいた。
ボロボロの、壊れた玉座に腰掛けた瑠夏が。
俺の直感が断ずる。
こいつは誰だ。
「誰だ」
俺は勇気を振り絞り一歩踏み出す。
ここで俺が動かなくて誰が動くッ!
「くくく、誰?と面白いことを聞くなぁ。見てわからぬか?」
「黙れ!お前は瑠夏じゃない!瑠夏はどこだ!」
俺は叫ぶ。
身体の震えを、本能が怯え、ひれ伏しそうになるのを必死にこらえる。
「お前など、お呼びではないわ」
瑠夏の皮を被った何かは手を振る。
それだけ。
それだけで俺は壁に叩きつけられた。
壁がきしみ、パラパラと屑が落ちてくる。
「春来ぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!」
美奈の叫び声が聞こえる。
リアルの女の子に心配されるような人間になったのか。俺も。
俺はゆっくりと立ち上がる。
くそっ。身体がいてぇ。
「何なの。あなた」
西園寺さんが冷たい眼差しで瑠夏の皮を被った何かを睨みつけ、問う。
「くくく、そうかそうか。何なの、か」
瑠夏の皮を被った何かは楽しそうに笑う。
「戯けが!貴様らぁ!」
瑠夏の皮を被った何かは怒鳴り声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます