第63話
ザーザーザー
頭にノイズが走る。
僕は歩く。
夜の世界を。
誰もいない山奥を進んでいく。
僕を照らすのは天上で輝き続ける。月だけ。
他者の光を浴びることでしか輝けないハイエナが。
ただ一人。歩き続ける。
僕の足取りは軽やかで、迷いがなかった。
何の迷いもなく僕の足は動き、進んでいく。
僕が何のために歩いているのか。わからない。
ただ、頭にノイズが走り、頭が回らなかった。
みザー大丈夫ザーかザー
ザーにザー配かけザーなザーうか?
わからない。
頭が動かない。
働かない。
ノイズが何もかもが邪魔をした。
辿り着いたのはザーザーザー。
僕は昇る。
降りる。
そして、座る。壊れた椅子に。
過去の記憶に。
過去の栄光に。
過去の玉座に。
静まり返った場所。
誰もいない。何の声もしない。
望んでいたはずだ。僕は疲れていた。あいつらなんていなくなってしまえば楽なのに。面倒だなぁ。
心のどこかでそう思っていた。
別に本気で望んでいたわけじゃない。
ただ少し、目の前にいる人間が煩わしく、邪魔に思ってしまっただけだ。
だけど、だけど、だけど、
本当にいなくなると、寂しい。
ここ最近ずっと彼女たちが僕の周りに、金魚のフンのようにつきまとってきた。
ずっとうるさかった。
ずっと喧しかった。
ずっと明るかった。
何もなかった僕の人生。機械のように生きた僕の人生。
半分以上が血に濡れた僕の人生。
西園寺家のために捧げ、敵を殺すために最も多くの時間が割いた僕の人生。
後悔はない。
西園寺家の役に立つことが僕にとって史上の至福だったからだ。
一人には慣れっこだった。
沈黙には慣れっ子だった。
静寂には慣れっこだった。
なのに、それなのに、
いつも明るかった。僕の周りはずっと明るかった。
だから、一人は嫌だ。嫌になった。
寂しくなった。
そんな感情が僕の中でいつの日か、いつの間にか芽生えていた。
人間らしくなっていた。
寂しい。寂しい。寂しい。
「寂しいよ。和葉。神奈。春来。美奈」
僕の口から久しぶりに言葉が漏れる。
「寂しいよ。美玲」
さぁ、始まる。
何かが。
長年の思いが。
ドロドロとしたものが僕の中からこぼれ落ち、染めていく。
目がチカチカする。
頭のノイズが僕のすべてを奪う。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
あぁ。もうすぐ来るぞ。
もうすぐ来るぞ。
─が。──が。────────が。
そして────
聞いたことがある声が、誰もいない空間に響く。僕の耳が捉える。
ノイズが晴れ、思考はクリアになった。
僕は、我は────
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