第62話
「和葉ー神奈ーお使い頼んだよー」
僕は玄関に向かって告げる。
僕が二人に頼んだのは夜ご飯のお使いだ。
「むむむ!やっぱり納得行かない!家で瑠夏と美玲の二人きりに出来ないわ!」
「そうよ!そうよ!私のお兄ちゃんなのよ!」
玄関ですでに決まったことに対して不満げな声を上げるよくわからない二人。
ちなみに今、春来と美奈は二人でどこかに行っている。
いやー、二人の仲がどんどん深まっているようでよかった。
「うるさい!さっさと行け!使えない役立たずども!美玲は変なことをしないからまだいいが、お前らは僕の仕事を邪魔してくるだろうが!」
俺がやっている投資の作業にいちいち二人は干渉してくるからうざいのだ。
逆に、美玲は僕以上に頭がいいので、的確なアドバイスをくれることがあるので、ありがたい。
まぁ基本的にアドバイスはくれないのだけど。
「「ぶー!ぶー!」」
僕はそれでもなお文句を言い続けてくる二人に罵倒を返し、さっさと行かせる。
全く。手間がかかる二人だよ。
二人を行かせた後は、この家には僕と美玲だけになる。
僕はソファに座っている美玲の隣に座る。
「……美玲?」
僕は美玲の対応に疑問を思い、首を傾げる。
いつもなら美玲は僕と二人きりにでもなれば、テーブルに置かれている角砂糖を口に放り込んで僕に甘えてくるんだけど……。
今日の美玲はいつもとは違った。
僕に甘えてくることはなく、悲痛気な表情を浮かべて、座っている。
「……ごめんね」
「何が?」
「面倒な女だってわかっている。でも、許せない。瑠夏が別の女と話すことが。瑠夏が別の女と過ごすのが。瑠夏が別の女と楽しそうにしているのが。瑠夏が別の女と一緒に笑い合っているのが。瑠夏が……許さない。許さない。許さない。許さない。許さない」
ぶつぶつと瑠夏は許さないをつぶやき続ける。
え?いきなり何?僕はいきなりの独白に困惑する。
「ごめん……。面倒な女で……でも、私には瑠夏しかいないから……」
「別にいいよ。美玲の面倒を見るのが僕の生き方だ。まぁ美玲には僕以外の人に関心を持ってほしいんだけどね」
「……」
僕の答えに美玲は沈黙を持って答える。
「ねぇ。瑠夏」
「ん?なぁに?」
「私のこと、好き?」
「うん。もち」
ザーザーザー
ノイズが走る。
僕は言葉を止める。
「瑠夏?」
「あ、うん。も、もちろんだよ」
ザーザーザー
ノイズが走る。
「……私も瑠夏のこと、好き」
美玲は座っていた僕の膝に頭を乗せる。
ザーザーザー
ノイズが走る。
「私は瑠夏のこと、男の子として、異性として好き。ねぇ。瑠夏は。私のこと、好き?」
僕は─────
ザーザーザー
ノイズが走る。
何を口にしようとする。
ザーザーザー
ノイズが走る。
僕は一体何を言おうとしていたの?
「 」
僕は口を開くだけで、何も答えられない。
何も言えない。
ザーザーザー
ノイズが走る。
僕は何も答えられない。何かを答える代わりとして、美玲の頭を優しく撫でる。
今の僕に出来ることなんてこれくらいだった。
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