第61話

「ふぅー」

 僕はお風呂の広い浴室でほっと一息をつく。

 この一ヶ月。

 僕、美玲、和葉、神奈、春来、美奈とシェアハウス生活を始めてから一ヶ月。

 色々あって疲れ果てた。

 誰が僕の部屋の隣になるかどうかで揉め→僕がリビングのソファで寝ることになった。

 和葉が猫、リーベを飼いたいとタダをこね→猫、たまは僕のものだ。

 本当に色々とあったのだ。

 疲れた。

 何故か疲れた。

 今までやってきたことを考えれば別にこれくらいなんともないはずなのに、なぜかはよくわからないけど、疲れた。

 本当に。

「入るぞ」

「うおっ!?」

「いや、なんだよ」

「いや、お前か。あいつらが入ってきたのかと思ったよ」

 いきなりお風呂の扉を開けて、中に入ってきたのは春来。

 よかった。あの三人じゃなくて。

「ははは、お前も苦労しているんだな」

「まぁね。見ればそれくらいわかるでしょ?僕の苦労具合は神がかっているよ」

「まぁ確かにそうだな。いつも大変そうだしな」

「少しくらいはお前も手伝ってくれていいんだよ?」

「いやぁー、それはちょっと」

「なんでだよ?」

 僕は浴槽に浸かり、春来は身体を洗っている。

「入るぞ−」

 身体を洗い終えた春来が僕も入っている浴槽の中に入ってくる。

 この家の浴槽は一般家庭のものより遥かに大きいので、二人入っても問題ない。

 ふむ。

 男二人の入浴シーンなんて一体どこにあるというのだ?

 え?ある?

 ……マ?どこに?

 え?腐ってる?……なるほどね。

「いやー。それでさ。結構前々から気になっていたんだけど。お前の周りには女子が三人もおるわけじゃん?」

「まぁ、そうだね」

「お前の中で誰が一番好きなの?」

「あー」

 一体誰だろうか?

 やっぱり──────

 ザーザーザー

 頭の中にノイズが走る。

 ザーザーザー

「ん?どうした?」

「あ、いや何でもないよ?。えっと誰が一番好き、かだっけ。考えたこともないなぁ。僕の一族は近親相姦が常識だし」

「あー。いや、俺が聞きたいことはそういうことじゃないんだが?」

「えー違うの?」

「当たり前だろ。俺が聞きたいのはお前の意思だよ」

「ぶー。さっきのが僕の答えで、意思だよ。あ、そうそう。春来はどうなのさ。美奈と」

「え!?」 

 僕が春来に尋ねると、春来は目に見えて動揺し始める。

「い、今は俺のことなんてどうでもいいんだよ!そう!今!俺が話題に上げているのはお前のことなんだから!」

「あはははは。動揺しまくりじゃんか。俺が愛するのは二次元だけだ!って声高らかに叫んでいた春来は一体どこに行っちゃったのかなぁ?」

「うるせぇ!」

 僕は声を上げて、笑う。

 あー、おかしい。

「まぁ今は僕の話だからね。くくく、これくらいで許してあげるよ」

「ちっ」

 春来はバツが悪そうに顔を背け舌打ちする。

「まぁでも。暇してないし、刺激的でそこそこ楽しいよ。今」

「……!そうか。ならよかった」

 僕の答えに春来は驚いた表情を僕に見せ、そして、安堵したように僕に告げた。

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