第60話

「私のほうが10g多いわ!」

 神奈が美玲の料理を指差し、高らかに告げた。

「私のも美玲のより8g多いわ!」

 それに同意するように和葉も続ける。

「「私達のほうが美玲よりも瑠夏から愛されているようね!」

 そして、声を揃えて告げた。

 なんでこいつらは協力しあっているんだ。

「何よ!そんなわけないじゃない!そうよね!?瑠夏!?」

「いちいち細かいんだよ!?なんで僕が神奈と和葉の分まで正確に図ってやらなきゃいけないんだ!美玲に出すものなら一分一厘の狂いは許されないが、お前らのなら適当でいいだろ!」

 涙目になりながら叫んでくる美玲に叫び返す。

 というか、今ペットの分の料理を作っている途中だから待ってほしい。切実に。

「「適当?」」

 僕の言葉に神奈と和葉が首を傾げる。

「なんか文句ある?作ってあげているだけでも感謝してよね?」

 シェアハウスでの生活が始まってから早一ヶ月。

 もう僕は疲れていた。

 普通に作って、料理の量に狂いが出てくるくらいには。

「仕えるべき西園寺家の人間が悲しむような料理を作るわけ無いでしょう。美玲のだけ丁寧に完璧な量で作っているの。他の人達は適当。見せかけの量に喜んでいるだけの単細胞たちには好きに言わせていればいいんだよ」

 僕はそれだけ言って、わーわー喚き散らす三人を無視してペットの方に意識を向ける。

 元気だなー。あの三人。

 それに対してお前は可愛いな。

 僕は自分の足元にすり寄ってくる猫を撫でる。

 あの三人が飼いたいと言い出したのだが、世話は僕の仕事だ。

 まぁ今ではこの子は僕にとって唯一の癒やしなんだけど。

 丹精込めて作ってあげた猫ちゃん用の料理をあげる。

「にゃーん」

 あー、可愛いな。こいつ。

 たくさんナデナデしてあげる。

「なんでよ!私のものちゃんと作ってよ!」

「そうよそうよ!」

「ふふん!私は特別なんだから!」

 あの三人の喧しさと言ったら何でしょうか?

 あぁ。

 お疲れだよ。僕は。

「あ、美味しいなこれ。こんなの食べたことねぇ」

「あ、ほんと。高級料亭よりも美味しいわよ。これ」

 僕は平和に会話を続けている春来と美奈のことを殺してやりたくなる。なんか僕の役割だけ多くない?多すぎない?僕以外何もしていなくない?

 まぁ僕が断っているんだけど。

 神奈はともかく他の人達の家事能力0だし。神奈と僕のやり方は正反対に近いので、僕が手伝わなくていいって言っているんだけどね……。

 僕には僕のこだわりがあるのだ。

 あれ?自業自得じゃね?

 神奈に頼れば解決するやん。

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