第57話

「神奈……私……瑠夏に嫌われちゃったかな?」

 瑠夏個人用の家であるアパートの一室に、三人の女子が集まっていた。

 西園寺家の一人娘、西園寺美玲

 四宮家の一人娘、四宮和葉

 災厄の一族である蛇蠍の娘、蛇蠍神奈

 決してこんな安っぽいアパートに集まっていいメンツではなかった。

「そんなことないよ。お兄ちゃんに人を嫌いになるという感情はないから」

 泣き言を言い、悲しそうな表情を見せる美玲に神奈は安心させるように話す。

「……人を嫌いになるという感情がない、ってどういうこと?」

 神奈の言葉を疑問に思った和葉が尋ねる。

「そうね。あなたにはまずそこから話さなきゃいけないわよね。……今から私が話すことは信じられないことかも知れない。でも、それが真実なの。心して聞いて」

「えぇ。わかったわ」

「お兄ちゃんは昔。もっと感情的な人だった」

 神奈は思い出す。

 笑顔で大声を出して笑いながら走り回る。お兄ちゃんの姿を。

 そして、笑うことも大声を出すことも無くなったお兄ちゃんの姿を。

「お兄ちゃんだけじゃない。従兄弟もそう。みんながみんな成長するに連れて感情がなくなっていく。希薄になっていく。そして、西園寺家に仕える道具と成り果てる。私達の一族は感情を失くし、西園寺家に仕えるために行動する。蛇蠍の一族は他人に特別な感情を抱くことはない。ただ、西園寺家に仕え、自分の一族の異性と性交し、繁殖するただの機械。生きた、人間のような見た目をした一族。それが蛇蠍」

「ちょっと待って?だとしたらあなたは?」

「それを疑問に思うのは当然ね。その答えはわからないわ。私だけ感情を失うことはなかった。お兄ちゃんも、従兄弟のお兄ちゃんも従姉妹のお姉ちゃんも。みんながみんな感情を失っていった。でも、私だけは失わなかった。天啓だと思った……機械として動く蛇蠍の一族を人間に戻す役割が与えられたのだと……。私は愚かにも本気でそう思ったの……何も出来ないのね」

「……なるほど……あら?でも、瑠夏は笑うわよ?」

 確かに瑠夏があまり笑っている印象はないが、笑うことはある。

 それに……和葉には瑠夏が他人に対して

「そう。そのはずなの。でも、お兄ちゃんは笑ったの。信じられなかった。……それに、お兄ちゃんがあなたのことを友達だと呼んだ。……本来ならばありえない話だった。……私はチャンスだと思った。……今ならお兄ちゃんを人間に戻せるかも知れない。輝いていたお兄ちゃんが……戻ってくるかも知れないと思ったの」

「私が瑠夏に長期休暇を与えたのもそれが理由よ。私の執事じゃなくて1高校生の方がいいんじゃないかって二人で話し合って決めたのよ」

「なるほどね……状況は理解したわ。つまり、私に瑠夏の感情を取り戻す手伝いをしてほしいってことよね?」

「えぇ。あなたも協力してくれるかしら?」

「当たり前じゃない。協力するに決まっているじゃない」

「よかったわ!話がわかる人で!それじゃあそのために……」

 三人は瑠夏が帰ってくるまで話し合う。

 瑠夏に感情を取り戻させるために……。

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