第55話

「……なぁ。おい」

「……なぁに?春来」

 僕は引き攣ったような声に僕も引き攣ったような声で返す。

 僕らはいつもどおりに教室に戻る。

 授業が終わり、美玲と和葉の対立が教室で生まれないように。

 みんなが帰ってきてから

 なのに何故だ?

 感じるこの悪寒は。

 なのに何故だ?

 なんで美玲に気配が教室でしている?

 なのに何故だ?

 なんで和葉と神奈の気配がする?

「ど、どうする?」

「……帰りたい」

「……行くしかなくないか?流石に放置というわけには……」

「今の僕は美玲の執事じゃない。だから……無視してもいいはず……」

「いや……駄目だろ!明らかに駄目だろ!」

「くっ……なんで?駄目?」

「あぁ、駄目だろ……お前くらいしかなんとか出来る人なんていないんだからお前がなんとかするしかないだろう。それに、ここで放置したら西園寺家の名にひびがはいるんじゃないのか……?」

「くっ……お前……お前……触れてはいけないところを……」

 西園寺家の名にひびが入るのを容認するわけにはいかない。

 いや、止めないなんてそもそも認められない。

「……行く」

「任せた!じゃあ俺は帰るから!じゃあな!」

「逃さない」

 僕は一人だけ逃げようとする春来を止める。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!離せ!離せ!離せぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!なんでだぁ!俺は関係ないだろうがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!」

 喚き散らす春来を無理やり抑え込む。

「行くよ……」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!離せぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええ!」

 僕はわめき続ける春来を連れて全くもって気が進まない一歩を踏み出した。

 

 一歩一歩歩き進んでいく中で悪寒は強くなってくる。

 春来なんかはガタガタと身体を震わせ、顔を青くしている。

「あわわ」

 教室の前に着くと、まず見えるのは泡を吹き気絶している生徒。

 扉から窓から身体を飛び出す生徒たち。

 ……うへぇ。

 嫌な予感しか、嫌な予感しかしない。

 倒れる生徒たちをかき分けて教室に入ると、そこに広がっていたのは地獄。

 中央で睨み合っているのは三頭の龍。

 そして、龍から逃げるように人々は逃げまとい、気絶している。

 ねぇ、外に向いている窓にも人が群がっているけど、大丈夫?誰か落ちていない?

 ここ3階だよ?」

「「「瑠夏ぁ!」」」

 僕に気づいた三頭の龍の咆哮。

 効果は抜群だ。

 春来は気絶した。

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