第37話

「あー疲れた。来るまでの間にすっごい疲れた」

 春来は心の底からのため息を漏らす。

「そうだね……。ちょっと休憩したい」

 僕もそれに同意する。

 ちょっと僕も疲れた。

 別に面倒を見るだけなら良いのだが、周りの人間への配慮、対処もしなくてはいけないから更に大変なのだ。

 慣れない環境だし。

 本当に色々とあった。

 僕もまだまだだったんだな……。

「何を言っているの?来たのだから遊ぶに決まっているでしょ?」

「時間は有限!楽しまないともったないよ」

 だが、そんな僕らの苦労を知らないお嬢様方は僕達を急かす。

「えぇー。ちょ、休」

「春来」

 僕は文句を言おうとする春来の肩を叩く。

「諦めろ」

「マジ?」

「マジだ」

 美玲は自分の言うことを曲げることはない。

 僕は執事として忠実に従うだけだ……。

「マジかぁ」

「じゃあ、まずはあのジェットコースターにでも行く?」

「いいわね。付き合ってあげるわ」

 僕らは意気揚々と歩き出す二人についていった。

 

 ■■■■■

 

「おぇ。気持ち悪い……」

 春来が心底気持ち悪そうにうなだれている。

 ベンチでうなだれているその姿は、公園で疲れ果てて黄昏れている中年サラリーマンの姿に似ていた。

「全く。情けないわね」

「いや。あの回数は無理……」

 僕達はもう五回連続でジェットコースターに乗っていた。

 確かに気持ち悪くなってもおかしくないだろう。

「まだまだ私は乗りたいのだけど?」

「……無理だ。流石に無理だ。もう無理」

 それに対し、春樹が拒否を示す。

 もう一度乗れば胃の中のものを確実に戻る。

 そんな覚悟が、そんな思いが、そんな切実な願いが、

 伝わってくる。

 本当に無理そう。

 ガチで無理そう。

「情けないわね。頑張りなさい」

 マジか。

 マジか美玲。

 頑張れ?ここで更にやらせようとするのか。残酷やな……。

 それだから友達がいないんだよ!優しさを持ってほしい。切実に。

「いいよ。私も他のところにも興味あるから、私がこいつと一緒に回ることにするわ。だから、あなたたち二人で行ってきて?」

 今にも吐きそうな春来に付き添っていた美奈がそう提案してくる。

「仕方ないわね。瑠夏。じゃあ二人で行くわよ?」

 美玲はその提案を了承する。

「わかった」

 僕は素直に頷いて、美玲についていった。

 それにしても美玲は後何回ジェットコースターに乗るつもりなんだろうか?

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