第30話

「何を作りましょうか?」

「そうね。……やっぱりカレーがいいわね瑠夏の好きな食べ物でしょう?」

「はい。そうでございます。では、カレーを作りましょうか」

「待って。敬語を辞めてちょうだい」

「いえ、そういうわけにもいきません」

「駄目よ。学校のときと同じようにタメ語で話してちょうだい。これは命令よ」

「……」

 僕は沈黙する。

 執事として、ご主人さまであるお嬢様に敬語を使わないなど許されるはずもない。

「だ、だめ、かしら?」

「……わかった」

 でも、お嬢様から

「これでいいの?お嬢様」

「お嬢様も駄目。美玲と呼んでちょうだい」

「わかったよ。美玲」

「〜〜!」

 僕がお嬢様のことを美玲と呼び捨てにするとバッと美玲が顔を背ける。

 や、やっぱ駄目だったか?」

「ふー。よ、予想以上ね。そのまま続けてちょうだい」

「……わかった。じゃあ、カレー作ろっか。ちょっと待って。材料を取ってくるから」

「私も一緒に行く」

「わかった」

 僕はお嬢様とともにキッチンの隣りにある調味料庫に向かい、スパイスをとってくる。

 その他にも、肉、じゃがいも、玉ねぎ、人参などを準備する。

「さぁ!作りましょう!」

 お嬢、美玲がやる気満々といった様子で包丁を握る。

 そして、思い切りまな板に載せられていたじゃがいもに振り下ろした。

 ドン!

 という強い音と衝撃走る。

「ちょっと待って」

 僕は慌てて美玲を止める。

 あっぶな!

 手も添えずに思いっきり振り下ろしたよ!?

「何よ?」

「危ないよ」

 僕は美玲の後ろに回り、抱きしめるような形で手を出す。

「ふえ!?」

「行くよ?美玲」

 僕はねこちゃんの手を作らせてとんとんと野菜を切らせる。

「あ!すごい!よくある形になっていくわ!」

 美玲が歓声を上げた。

 これは前途多難そうだ。


「お嬢様!?何を入れようと!?」

「え?調味料って色々な種類のものを入れれば入れるほど美味しいんじゃないの?」

「違うよ!料理には適した調味料の種類と量が決まっているから!」


「美玲!?洗剤を持って何をしようと!?」

「え?ご飯って洗剤で洗うんじゃないの?」

「違うよ!普通に水で洗うだけでいい!それにこのお米は洗わなくても大丈夫なやつ!」


「美玲!?何を入れようと!?」

「え?このいい感じの葉っぱ入れたら美味しくなるかなって」

「駄目だよ!それリシンだから!死ぬから!どこで持ってきたの!」


「美玲!?今度は何を!?」

「え?皿って炙ったほうが良いんじゃないの?」

「そうだけど、やりすぎだから!火炎放射器使わないで!本当にどこで持ってきたの!」

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