第31話

「はぁー」

 僕はゆっくりと息を吐く。

 疲れた。

 しかし、なんとか作れたぞ。

 毒物ではなく、普通の料理を。

 いつもの倍以上の時間がかかってしまった。

 まさか美玲がこんなにも料理が壊滅的だとは。

 いつもの完璧超人はどこに行ったんだって問いたくなる。

「やった!出来た!美味しそうね!」

 美玲が嬉しそうに声を弾ませる。

「そうだね」

「ふふふ。さぁ食べましょう!」

 ……こんな嬉しそうな美玲は久しぶりに見る。

 頑張った甲斐があったというものだ。

 執事命理に尽きる。

 ……僕、執事から離れていっている気がする気がするんだけど。

 楽しそうに食器を持っていく美玲を眺めながら、スプーンを持って後を追った。

 

 ■■■■■

 

「最高に美味しいわ!」

 スプーンで作ったカレーライスを頬張り、

「よかったね」

 及第点。

 僕は冷静に点数をつける。

 素材はどれも一級品を使っているので、お店に出せるレベルにはなっているが、一杯800円くらいが妥当だろう。

 材料費は800円を超えるので普通に赤字である。

 これを普通の材料で使って作っていれば落第である。

 こんなものをうちの料理人が出してこようものなら即刻でクビにする。

 でも、美玲が美味しいって言っているのであれば問題ないか。

 自分で作ったものが一番美味しいっていうらしいからね。

 僕の場合は自分で作ったものより美味しいものはないからあまりそういう感覚を体感することはないのだが。

 というか、結構お腹一杯である。

 もう僕はすでにカレーライス?を一杯食べているのだ。

「はい、あーん」

「……あーん」

 僕は美玲が突然差し出されたカレーライスが載せられたスプーンを口に加える。

「……慣れてるわね?」

「ん?あぁ、和葉とでかけたときにやったからね」

「へぇ」

 冷たい声。

 糖分をとって甘々になっているときの声ではなく、冷血女皇の名に相応しき冷たい声だった。

 美玲がまとっている雰囲気もピリッとしたものへと変わった。

 僕が何を言うべきか。頭を回しながら口を開く。

 その前に美玲が雰囲気を和らげる。

「まぁいいわ。どうせあなたは私のもとに帰ってくるのだしね」

 ……?

 帰ってくる?

 僕は美玲が小さく呟いた言葉に首を傾げる。

 僕の居場所はもとより美玲の場所だけだが。

「あんな雌豚の話はいいわ。せっかく二人で作ったのよ!美味しくいただきましょう!」

「そうだね」

 雌豚。……雌豚。

 そんな汚い言葉を使わないでほしいんだけどな。

 美玲には僕以外の人間にも愛嬌と、社交性を見せてほしい。

 いずれ大企業の顔となる人なのだから。

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