第29話
「おかえりなさい!」
「すみません。お嬢様。遅れてしまいました」
僕は玄関で待っていたお嬢様に頭を下げた。
お嬢様はどうやら早退したらしく、そんな事実を露と知らなかった僕はお嬢様を長時間待たせると言う愚行を犯したのだ。
「いいのよ!サプライズがあって、あえて私が早く帰ったのだから。他の使用人たちもお願いして根回しまでしてね!」
ふむ。
後で他の使用人たちをシメる必要があるかもしれない。
お嬢様が何かすると言うなら、僕に一度連絡くらい入れるべきであろうに。
お嬢様に何かあったらどうするというのだ。
「サプライズ、ですか」
「そうよ!楽しみにしてなさい!」
「もちろんにございます。お嬢様がこんな私に対してサプライズなんてものを。至極幸せにございます」
「よかったわ!私が」
「お嬢様が?」
「そうよ!私が」
お嬢様がご飯を。
大丈夫だろうか?
今までお嬢様はお菓子作り以外の料理をしたことがない。
ちゃんと作れているだろうか?
いや、お嬢様は天才なのだ。
料理くらい朝飯前だろう。
普段食事をとる食堂に入ると同時に異臭が鼻につく。
見ればわかる。見なくても感じれる。
異質な雰囲気を放つ料理を。
お嬢様?
なんですか?この悪魔への、邪神への供物は。
カレー、だろうか?
白いご飯に紫色の液状の物質がかかっている。
グツグツと沸騰し、シュコーシュコーという謎の音を発し、プカプカとよくわからないものが浮いている。
……なんだろう。
泡も浮いていないか?
「やっぱ。駄目よね」
お嬢様が先程までの自信満々な様子を一転させ、悲しげな表情を浮かべる。
「いえ、美味しそうにございます」
僕は席に座り、よくわからない音を上げるモノを口に含んだ。
ふむ。
なんだコレ。
口の中が、体の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、全てを侵略していく。
毒物。
毒物に近い。
……というか、毒物に対する耐性がある僕ならともかく。耐性がない一般人が食べたら死ぬんじゃないか?
後、この白米。
洗剤で洗われていないか?
一つ確実に言えることがある。
カレーではない。
「どう?美味しい?」
「お嬢様が丹精込めてお作りになられたもの。それを口にできるだけも幸せにございます。ですが、
「そう……。駄目よね。捨てていいわよ。それ」
「いえ、全て食べさせていただきます。お嬢様の初めての手料理なのですから。この後、私と共に料理の練習を致しませんか?」
「やるわ!」
お嬢様は悲しそうな表情を一転させ、嬉しそうに頬をほころばせる。
僕はサクサクっと上品に毒物を胃の中に収め、席を立ち、お嬢様と共にキッチンに向かった。
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