第24話
「ここにしようかしらね?」
僕たちがたどり着いたのは学校で噂になっているカフェ。
美味しいパンケーキが売っているお店なんだそうだ。
春来が美味しかったと話していた。
まぁ、噂になっているとは言っても僕たちが通っている学校はいいとこの坊ちゃん、お嬢様が数多く通う名門高校。
噂になっていたのは数少ない一般人たちの間でだ。
学校に通うほとんどの人が知らないだろう。
よく和葉はこんな店知っていたな。
「あまり高いところに行くよりこういうところに行く方がいいんじゃないかと思ってね」
「うん。そうだね」
別に僕はお嬢様の執事なので、高い店には慣れているから平気なんだけど。
でも、和葉なりに僕のために考えて行動してくれたというなら嬉しい。
僕たちはお店に入り、人気メニューであるというパンケーキとコーヒーを頼む。
「わー!美味しそうね!こんなの初めて見たわ!」
「初めて見るの?」
「そうね。私はこういうのを食べたことなんてないから」
「へー」
お嬢様とは違うのだな。
まぁそうか。
「「いただきます」」
僕はパンケーキを一口サイズに切り、口に含む。
うん。美味しい。
安い素材を使っているので、お嬢様に出す料理として言うのであれば落第だが、この値段でというならとてもいい。
腕のいい職人さんなんだろう。
「んー!美味しい!」
和葉が嬉しそうに話す。
「そっか。よかった」
「あ!」
和葉は何か思い出したように呟く。
そしてパンケーキを一口サイズに切り、それをフォークで刺して僕に向ける。
「はい、あーん」
……。
あーん、か。
あーんの良さを春来によってたっぷりと叩き込まれたので、それがどういうものなのかは知っている。
その良さまではわからなかったけど。
あーんはカップルが行う行為だ。
それをお嬢様が許すかどうか。
……。
まぁもう今更か。
デートしている時点で手遅れである。
僕は口を開け、差し出されたパンケーキをほお張ろうとする。
だが、その前に和葉が差し出したフォークを引き、僕の一口は空を食らう。
「だめよ!ちゃんとあーんって言って!」
「わかったよ」
「はい、あーん」
「あーん」
僕は今度こそパンケーキを口に含んだ。
「美味しい?」
「うん。美味しい」
「よかった。じゃあ、はい。あーん」
和葉は口を開ける。
「あ、僕もやるのね」
「当たり前じゃない!」
「はい、あーん」
僕はパンケーキを刺したフォークを和葉に差し出した。
「んー!美味しい!」
和葉は幸せそうに頬をほころばせた。
ふふふ、それならよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます