第23話

「え?」

 僕はソワソワとした様子で駅の銅像前に待つ少女、和葉の姿を見て疑問符を浮かべる。


 時が流れるのは早いものでもう土曜日が来てしまった。

 今日は散々お嬢様に行かないでほしいと懇願された和葉とのデートの日だ。

 待ち合わせ時間は午前10時。

 僕が住まわせていただいている西園寺邸からここまで徒歩30分。

 なので、午前9時20分に家を出れば良いのだが、相手はあの和葉である。

 なんでかはわからないけど、僕に異常なまでの愛情と執着心を向けてくるあの和葉である。

 どうせとんでもなく早く目的地に来ていると思うのだ。

 だから、僕は待ち合わせの5時間前にここに来ようと思った。

 故に今の時間は午前5時。早朝である。

 僕はお嬢様の有能な執事であり、道具である。

 そんな僕が約束において誰かを待たせるなど言語道断である。

 だからこそのこの時間。

 だからこその5時間前行動。

 なのに、なのに、なのに、

 なんで和葉がすでに居るのだ?

「ごめん。和葉。待たせた?」

 意味がわからない。

 だが、待たせてしまったのは事実誠心誠意お詫び申し上げるしかない。

「大丈夫よ!私も来たばかりだから!たったの8時間しか待ってないから」

 ………?

 ん?

 聞き間違いか?

 それとも僕の感知精度が落ちているのか?

 たったの8時間?たった?来たばかり?嘘はなし。

 は?

 それに8時間待った?

 え?今午前5時なんだけど。

 それから8時間。

 午後9時。

 ふむ。

「え?待ち合わせって午後10時だった?」

「え?そんなわけないじゃない」

 あ、そう。

 これは無理だわ。

 僕のせいじゃない。

「じゃあ、行きましょう!」

「どこに?コンビニみたいな24時間営業の店くらいしかやってないと思うんだけど?」

「え?別に二人で少し歩きながら話していればすぐに終わるでしょう?」

「……そか」

 ……少しってなんだっけ?

 少しという言葉に疑問を思いながらも僕は和葉と一緒に歩き出した。

 

 こうして一緒に話しながら歩いていると和葉の凄さがわかるな。

 もう3時間くらい話しているんだが、無駄話がない。

 和葉が話す話はどれも話に引き込まれ、ためになる。

 一緒に話していて楽しい。

 流石は大企業の一人娘。

 コミュ力で言えばお嬢様を遥かに凌駕する。

 ……うちのお嬢様がコミュ力皆無に近いのだけど。

 もう少しでいいからコミュ力を身につけてほしいんだけどなぁ。

 いや、ほんと、マジで。

「ねぇ。あの女の事考えてる?」

「え?」

「今は私のことだけを見て。聞いて。感じて。私のものに」

 和葉がぎゅっと僕の腕を掴み、美しく禍々しい笑顔を浮かべる。

 僕の腕を引きちぎらんばかりの力である。

 え?

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