第22話

「そんなジリジリ来られても困るんだけど」

 僕は近づいてくる和葉の首元に30cm定規を突きつける。

「というかさ、西園寺さんもそんなに周りを威圧しないでほしいんだけど」

 そして無言の圧力をかけ続けるお嬢様にも一言告げる。

 クラスメートたちが僕に希望の視線を向ける。

 うん。

 僕に任せてくれ!

 自信は一ミクロンもないけど。

「え?」

 お嬢様は僕の言葉に驚き、唖然とした表情を浮かべる。

 当然だろう。

 僕がお嬢様の意にそぐわない言葉を、反抗した言葉を話すのが初めてなのだから。

「私のなのに……私のものなのに……瑠夏は私のなの!」

 お嬢様が癇癪を起こした子供のように喚き、叫ぶ。

 パリンッと窓が割れ、クラスメートの数人の意識が暗く染まる。

「今の僕は西園寺さんの道具じゃない」

 ……ん?

 道具じゃない?いや、違う。僕は未来永劫生きている限りお嬢様の手であり足であり、道具だ。違う。僕は人間だ。

 あれ?わからない。あれ?僕って何だ?

 わからない。

 ……。

 いや、何も疑問には思わなかった。

 僕は何も考えていない。

「僕だって人間感情くらいはある。僕は西園寺さんにみんなに迷惑をかけるような人にはなってほしくない」

「あ、ごめんなさい」

「ごめんなさいを言うべきなのは僕じゃない」

「そうね。ごめんなさい」

 お嬢様がクラスメートたちに深々と頭を下げる。

 それに慌てふためいのはクラスメートだ。

 みんながすぐに頭を上げるように促す。

 クラスメートたちの僕を見る目がまるで神様を見たときのようだった。

「和葉もだよ」

「わかってるわ。みんなごめん」

 和葉もお嬢様と同様にクラスメートたちに頭を下げる。

 ふふふ。

 流石は僕。

 めちゃくちゃ上手く行った。

 やっぱ僕は天才なのでは?

「それで瑠夏?」

「ん?」

「なんで私の連絡を無視したの?」

 どろり。

 おや?またもや不穏な空気が。

「……あー、ごめんね。スマホの充電がなくて」

「あら?そうなの。それは仕方ないわね。じゃあいいわ。要件は今ここで言うとするわ!」

「ん。何?」

「あのね。私と一緒に出掛けないかしら?きっと楽しいわ!」

「は?」

 和葉の言葉に反応し、お嬢様がキレ気味に話す。

「まぁいいよ。じゃあ今度の土曜日に一生に出かけよう」

「わかったわ!」

 和葉が嬉しそうに告げる。

「むぅー」

 それに対し、お嬢様はほっぺを膨らませて不満を表現していた。

 表面上は。

 さっきの言いつけを守るためかお嬢様は表面上には出さない。

 しかし、裏では、ドロドロとした醜い感情が渦巻いているのを感じた。

 ドロドロとした恋愛感情。

 ……え?

 僕は道具だ。

 お嬢様が恋愛感情を抱くはずが。

 え?あれ?

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