第16話

 殺気。

 生きとし生けるものすべてを恨み、殺さんとする絶対の殺気。

 クラスメートたちは絶対上位種の存在の確立に恐怖し、畏怖し、動けない。

 そんな殺気を放っているのは我らがお嬢様。

 なんで?

「どうしたの?西園寺さん?」

 そんな中平然と和葉が話す。

 周りのクラスメートたちの期待の視線が和葉に向けられる。

 そして、

「あぁ、そうそう。聞いてよ!昨日私瑠夏と楽しくデートしたのよ?」

 裏切った。

 和葉が僕の右手を掴み、幸せ一杯に告げる。

「あ?」

 世界が終焉を迎えた。

 クラスメートたちが世界の終焉を感じた。

 ここで半数の人たちが静かに、泡を吹き、倒れた。

 地獄から抜け出すことに成功したのだ。

 だが、残された人たちの地獄は終わらない、ここから始まる。

「何するのよ?」

 お嬢様の神速の動き。

 お嬢様が和葉を投げ飛ばした。

 何が?何が?起きている?

 瑠夏は混乱している。

「おいおい、やばくね?」

 春樹が僕に近づいてきてそう話す。

「うん。やばいね。かなりやばいよ」

「というか、何なんだよ……。あれ」

「お前が知らねぇのに。俺が知るか。それにしてもお前もすごいな」

「何が?」

「いや、あんな美少女にあそこまで好かれるなんて。一体何をしたんだ?」

 一体何を言っているんだ?

 こいつは。

「好かれる?僕が?和葉から?いやいや」

「いやいや、完全に好かれてるだろ。アイ・ラブ・ユーだろ」

「え?いやいや、あんなドロドロとした感情が恋愛感情なわけがあるか!恋愛感情ってのはもっと繊細で暖かく甘酸っぱい感情だぞ!?」

 あれが、恋?

 あのドロドロとした感情が恋なわけ!

 他の人たちの感情はもっといい感じのものだったぞ!

 あんなんもう殺気だよ。

 そこらのリア充の感情より、歴戦の暗殺者の感情に近いよ!

 それが恋なわけ!

「馬鹿野郎!メンヘラ、ヤンデレって奴だよ!」

「何だよそれ!」

 確か和葉もメンヘラとか言ってたっけ?

「まぁ、簡単に言うと、『あなたを殺して私も死ぬ!』ってやつだ」

「なにそれ怖」

 そんな殺害理由聞いたことないよ!?

「あぁ、そうだ。怖いんだよ。ヤンデレ、メンヘラってやつは。だが、そのスリルに、美少女が俺を死んでもいいくらい愛してくれている。ってことに萌えを、愛おしさを感じるのさ」

「感じないよ!?」

 感じてたまるか!

 殺気で興奮するような変態はいないよ!いてほしくないよ!いたけどね!会ったことあるけどね!

 だが決して僕は感じない。

「というか、あの西園寺 美玲とお前の関係は何なんだ?」

「う……それは……えっと」

 どう誤魔化そうか。

 お嬢様!なんで僕に関わってくるんですか!

 どう言い訳すればいいんですか!僕は!

 どう動くのが正解か、どう話すのが正解か、必死に頭を働かせて悩む。

 だがしかし、そんな僕の悩みを吹き飛ばすかのように話は加速度的に進んでいく。

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