第14話


 さっきからものすごく背中の方に視線を感じる。

 そしてどんどん僕に向けられるドロドロとした感情、ドス黒い何かが強くなっていっている。

 ほんと、何なのだろう。

 今、僕は和葉の家のメイドさんに案内され、テラスに向かっている。

 和葉にお茶しないかと聞かれたのだ。

 どうせ家に帰ってもやることなんてないんだし、僕はその申し出を受け入れた。

 

「はい。座っていいよ」

 テラスに置かれた椅子の一つに座った和葉が自分の膝を叩いた。

「ふっ」

 僕はそれを鼻で笑い、別の席についた。

「ぶー」

 ぶーたれる和葉を無視してテーブルに置かれたクッキーを手に取る。

 テーブルにはクッキーと僕と和葉の分の紅茶が置かれている。

 うーん。

 サクッ、ほろっとした食感に、上品な甘さ。

 ここまでは完璧な美味しいさ。

 だが、一つ違和感があった。

 なんだろう?この、苦く、どこか鉄のような味は。

 ……血?いや、そんなわけはないか。普通に考えてクッキーの中に血が入っているわけなんかない。

 次は紅茶だ。

 カチャ

「ズズズ」

 カチャ

 あえて音を立てながら飲む。

 ……ちょっと汚すぎたかな?でも、春来はこれくらいだしいいか。

 問題の味の方だが、良い茶葉を使っているのだろう。

 とても上品な味わいだった。香りもいい。

 だが、これもまたよくわからない味が混ざっていた。かすかな、普通の人では気づかないであろうかすかな雑味。

 紅茶の方も落第点だな。

「どう?美味しいかな?」

 美味しくない。

 もしお嬢様の邸宅でこんなものを他の使用人が出してきたら許せないし、使用人としての僕が答えるとなるとその答えになるだろう。

 でも今の僕は一般市民なのだ。

 となると、答えは唯一つ。

「うん。美味しいよ」

 クッキーも紅茶も最高品の素材を使われて作られているのだ。市販のものと比べたらどちらも圧倒的に美味しい。

「そう!よかった!私も手伝ったんだよ。普段やらないから大丈夫かと心配で……」

「へーそうなんだ。すごいね。めっちゃよく出来ているじゃん」

 なるほど。

 和葉が手伝ったからか。

 でも、僕のために慣れないことを頑張ってくれたと思うと嬉しいところがあるな。

 その後、僕と和葉はクッキーと紅茶に舌鼓を打ちながら、雑談に花を咲かした。

「じゃあ、僕はそろそろ帰るね」

「……帰っちゃうの?別に泊まっていてくれても……」

「あはは、そういうわけにもいかないからね。帰らないと」

 お嬢様も夜には帰ってくるしね。

「そう……」

「うん。じゃあ、また明日学校で」

「うん。じゃあね」

 僕は和葉に別れを告げ、帰路につく。

 車で送っていくと言われたが、丁重にお断りしておいた。

 このままお嬢様の邸宅に向かってしまいたい。

 

 ん?尾行されている……?

 僕は尾行してくる人を適当に巻いておいた。

 超人的な動きはせず、ごく自然に巻くの大変だった。

 ……一応僕の家の方にも戻るか。

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