第11話

 僕は和葉がこのアパートの近くにいなくなったことを確認してから部屋に戻る。

「申し訳ありません。お嬢様。来客でして」

 僕は一瞬で着ていた制服を脱ぎ、目覚めたときに着させられていたボロボロの一枚の布で作られていた制服に着替えた。

 その後、急いでベッドに寝転がり、足をロープで縛り、首輪を自身の首にかける。

「え?」

 お嬢様が呆然と困惑したような声を上げる。

 どうしたのだろうか?

 続きはしないのだろうか?

「誰?」

 困惑から立ち直ったお嬢様が冷たい声で告げる。

「和葉だね」

「……で?」

「?」

 僕はなんて答えれば良いかわからず首をかしげる。

「要件は何だったの?」

「あぁ、連絡先を交換してと」

「は?」

 お嬢様がキレ気味に吐き捨てる。

「それで?交換したの?」

「はい。必要だと判断しましたので」

「今すぐにその携帯を捨てて、新しいのを買いなさい」

「すみません。それは了承しかねます」

「……わかったわ」

 お嬢様が苦虫をダース単位で噛み潰したかのような表情で認める。

 流石にそれで捨てちゃったら和葉にどう説明すればいいかわからない。

「連絡は最小限。来た連絡を最小限の言葉で返すこと。いいわね?」

「了解いたしました」

「……」

 お嬢様が顔うつむきしばし黙る。

 どうしたのだろうか?

「ねぇ」

 顔を上げたお嬢様の頬は少し赤かった。

 糖分を摂取したのか?

「誰があなたのご主人さまが私がその体に叩き込んであげる」

 お嬢様が僕が寝転がるベッドに乗る。

 キシッ。

 お嬢様がベッドに乗ったことでベッドがきしむ。

 ……体重が2kgほど増加している。

 そのままお嬢様は無言で顔を僕に近づけ、目をつぶる。

 何をしたいのだろうか?

 僕が意図を測りかねていると、時間になる。

「すみません。お嬢様」

 僕はすぐに拘束から抜け、燕尾服に着替える。

「何を勝手に!?」

「時間です。今帰らなくては食事の時間に遅れてしまいます」

「は!?そんなの……」

「お嬢様の健康を守るのも私の仕事にございます。ご容赦ください」

「……わかったわ」

 お嬢様が少しの沈黙の末了承してくれる。

 よかった。

 僕はリムジンに乗って出発したお嬢様を見送った。

 さて、僕は自分の部屋をきれいにしようか。

 僕は自分のアパートの部屋に視線を向けた。

 

 ■■■■■

 

 僕はいつも通りにお嬢様におやすみの挨拶をした後、自分の部屋に戻ってくる。

 部屋に入ると同時にムワッとあの匂いが僕の鼻孔を直撃した。

 臭い。

 朝、お嬢様の部屋から感じるあの匂いとそっくりであった。

 たまにではあるが、あの匂いが僕の部屋にも感じるのだ。

 特に僕が毎日使っている筋トレ道具から特に強く感じる。

 何なのだろうか?

 この匂いは。

 なんかの動物の匂い?

 お嬢様が僕に内緒で何か動物を飼っているのだろうか?

 両親からは主人である西園寺家の人間が飼っている動物には触れるな、認知するなと言われているのでもしかしたらそれかもしれない。

 僕は憂鬱とした気持ちになりながらも、自分の部屋の窓を開けた。

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