第10話

 僕はすぐさま外に出て、扉のドアを閉める。

 中にはお嬢様と異様な存在感を放つ巨大なベッドがあるので、中を見せるわけにはいかない。

 僕の家にピンポンしてきたのは和葉。

 一体何の用だろうか?

「あ、あの、家に入れてくれない?」

「うーん。ちょっとそれは……」

 何だ?何のようなのだろうか?

 わかっているのか?お嬢様がここにいることを……。

 僕は警戒心を一つ上に上げる。

「駄目?」

「うん。ごめん。普通に男の子一人部屋なんて女の子に見せられるものじゃない」

「……どうしても?」

「うん!しつこいよ!」

「……わかった。私が朝言ったこと覚えている?」

「あぁ、うん。覚えているよ。……僕は無理だよ?」

「えぇ。それはわかっているわよ。相談に乗ってくれただけでもありがたいわ。ちゃんとした人を紹介してくれるんでしょう?なら連絡交換しておいたほうがいいんじゃないかと思ったのよね。もし家にある謎の箱に何かあったときのために連絡手段は欲しいかなって」

「なるほど……」

 ……どうしようか。

 僕はお嬢様にお嬢様以外の女と連絡を交換しないように言いつけられている。

 その言いつけの意図はわからないが、両親とは独自の連絡手段があるし、家のメイドとは連絡をとらないので、困らなかったので、その言いつけを守っていた。

 のだが、どうしようか。

 出来ればお嬢様の言いつけには従いたい。

 僕はお嬢様の道具なのだから。

 飼い犬が飼い主を噛むなどありえない。

 だが、だが、断る理由がない。

 理由を考えられない。

 連絡先を交換することのメリットはあるが、交換しないことによって得られるメリットはない。

 その上で断るとなるとかなり厳しいものがあると言わざるを負えない。

 はてはて、どうしたものか。

「駄目?」

 僕が悩んでいる間にせっつかれてしまう。

「うーん。厳しいかなぁ」

「彼女に言われているから?」

「え?」

 彼女?誰だ?

 お嬢様のことか?

 ここでボロを出すわけにはいかない。

 僕とお嬢様は他人ってことになっているのだ。

「そんな束縛するような彼女なんて駄目だよ?メンヘラヤンデレ女と付き合うなんて駄目よ」

 束縛?

 道具への命令は当然だ。

 なら、お嬢様ではない?

 というか、メンヘラ?ヤンデレ?なにそれ?というか、付き合う?僕がお嬢様を放置して誰のどんな用事に付き合うんだ?

「そんなクソみたいな女となんか別れたほうがいいわ。……別れたら私と……」

 ん?なんて言ったんだ?

 最後ゴニョゴニョしててよく聞き取れなかった。

「まぁ。うん。わかった。交換するよ」

「ありがと!」

 僕は諦めて連絡先を交換することにした。

 連絡先を交換した後、和葉うちの前に停められていたリムジンに乗って帰宅した。

 わざわざこれのためにこんなところに来たのか?

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