第8話 ルブラ村へ

眩しい太陽の光と下の階から聞こえる声で目が覚めた。声が小鳥の囀りだったらもう少し格好もついたのだが…。長旅や試験が終わったからかぐっすりと寝ることが出来た。まだ起き上がりたくない気持ちを抑えて俺はベッドから出た。


着替えて下の階に降りると何人かの客が朝食を食べていた。皆美味しそうに食べており、奥の席に座っていた強面のおじさんもニコニコしている。ぬいぐるみのクマさんみたいだ。


「おや、初めて見る顔だね?」


クマさんを見ていると声をかけられた。そこには昨日の受付の女の子と似ている顔の女性がいた。しかし、身長なんかはかなり違うため恐らくだがあの子の母であろう。


「はい、初めて泊まったもので」

「そうだったのかい!そいつはありがとうね、私はハンナっていうんだ」

「どうも、アレンです」

「それでアレン、朝食はたべるかい?」

「ええ、いただこうと思ってます」

「それなら空いてる席に座ってくれ、出来たらそこまで運ぶよ」

「分かりました」


そして俺は空いてる席に座り朝食を待っていた。五分ほどするとハンナさんが朝食を持って来てくれた。


「はい、今日はウサギ肉のシチューとパンだよ」

「ありがとうございます」

「たんとお食べ!」


俺はお礼と「いただきます」の挨拶をし、シチューを食べ始めた。俺は母特製のウサギ肉のシチューが大好物でここのシチューは母のと味が似ていてとても美味しい。しかし、こちらの方が味はしっかりしている。これは単に調味料の差であろう。


ものがあれば集まる王都では多くの調味料を安く手に入れられるが、田舎であるルブラ村なんかで買おうとすると高くて買えたものではない。


俺はシチューを食べ終え、一度部屋に戻った。そして荷物を持って宿を出た。ハンナさんは「またおいで!」と言って見送ってくれた。俺はリアとの約束の場所である東の城門に向かった。






俺が東の城門に着いて少しするとリアがやってきた。後ろにはスラッとした女性がいる。リアと雰囲気が似ている気がする。


「すまない、待たせたな」

「俺も今来たところだから大丈夫だ」

「そうか、ならよかった」

「それで後ろの人は?」

「ああ、クリスのことか。紹介しよう、私の護衛のクリスだ」

「クリス・ランフォードです、よろしくお願いします」

「えっと、よろしくお願いします…なあリア」

「ん?どうした?」

「護衛は1人だけなのか?」

「そうだが?」

「でも貴族って普通はたくさんの護衛がつくんじゃないのか?」

「その質問には私が答えましょう」


俺が疑問を口に出すとクリスさんが質問に答えてくれた。


「答えは簡単で、護衛を多くつけるとかえって足手まといにしかならないからです」

「え?」

「リア様は次期剣聖との声も名高いほどの実力者です」

「剣聖?」

「ご存知だとは思いますが、剣聖とはこの国の中で最も強い剣士に与えられる称号のことです」


剣聖については俺もよく知っている。なぜなら剣聖の称号は「この世に知らぬ者なし」と言われるほどのものだ。


子供が読むような英雄譚の話の中にもよくでてくる。そして次期剣聖とも呼ばれるほどの相手が目の前にいる。


「マジ、かよ…」

「ええ、大マジです」


クリスさんは笑っている。リアは呆れたような表情をしながらクリスさんをたしなめた。


「はあ〜、クリスからかうのもそこまでにしておけ」

「ふふ、分かりました」

「え?てことは…次期剣聖ていうのは…」

「あ、それは本当だぞ」

「いや、本当なのかよ!」

「自分で言うのも何だが、私は剣の腕は中々なものだと自負している」

「リア様が中々の腕前なら、他の人は何なんですか…」


今度はクリスさんが呆れている。なんか忙しいな、この主従。


「ああ、そうだ。付け加えるとするならアリスも私と同じような理由で護衛がいない、いや正確には付かない」

「なるほど…」


俺はいろいろと納得した。アリスの魔法の腕前は凄まじいものだった。それは勿論納得がいくだろう。


「しかし、リアが次期剣聖と呼ばれるほどの実力とはなあ…機会があったら剣を教えてもらってもいいか?」

「ああ、勿論だとも」

「ふふ、2人はとても仲良しなんですね。さて、そろそろ出発致しましょうか」


クリスさんに言われるまで本来の目的を忘れていた。移動はどうするか聞いてみると普通に馬車を使うらしい。


俺たちは昨日と同じように馬車の乗り場に向かい、馬車を手配した。手配したというよりすでに手配されていたようだった。


リアに聞いたところ実は前日に予約をしてくれていたようだ。俺はリアにお礼を言い、荷物を持って馬車に乗り込んだ。最後に俺が乗り込んだときにクリスさんが御者の人に出発をお願いしてくれた。


「では出発します!」


そして御者の元気な声と共に馬が歩き出した。

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