第7話 ハワード商会にて 2

「「え?」」


二人はこちらを理解できないような顔で見ている。


「す、すみませんがエルレンシア公女、もう一度言ってもらっても?」

「だから、アレンはラグラール学園とミラグレス学園を間違えて受験したのだ」

「アレン君どういうことだい?」


アティラさんの声は震えていた。


「えっと、父の手紙通りの指示に従って行ったらミラグレス学園に着いたというか…」

「その手紙はまだ持っているかい?」

「はい」

「ちょっとそれを読ませてくれ」

「分かりました」


俺はそう言い、懐から手紙を出してアティラさんに渡した。アティラさんはその手紙を真剣に読んでいる。そして納得のいく表情をしていた。さらにこちらを可哀想な子を見るような目で見てきた。


「アレン君やっと分かったよ」

「何か分かったんですか?」

「ああ、君はまず一つ目のところから間違っている。最初の方を読んでごらん」


アティラさんから手紙を受け取り読んでいくとこう書いてあった。『西の城門から入って』と。つまり俺はここから間違えていたのだろう。 


「なんて書いてあったんすか?」

「『西の城門から入って』って書いてあった…」

「つまりアレンは西ではなく東の城門から入ったために間違えてミラグレス学園を受験したということか」

「え、アレンってもしかしてポンコツなんですか?可愛いっすね」

「やめろ!俺の心の傷を抉るな!」


リアに加わりアリスもニヤニヤし出した。やめて!俺のライフはもうゼロよ!


「しかしまあ、アレン君は間違えたとはいえよくあのミラグレス学園に受かったね」

「それは僕も思ったんですよ。僕、平民なのに」

「ああ、それはミラグレス学園が良くも悪くも実力主義な校風だからだよ」

「だが、学園の上層部の一部には血統主義で平民を見下す者もいると聞く」

「そうっすね、実際いると思いますよ。だからアレンが特待生で合格っていうのは難しいっすね」

「そうなってくるとアレン君、君の家に学園に通えるだけのお金はないんじゃないのかい?」

「それは私が貸すことになっている」

「エルレンシア公女がですか?」

「ああ、それに使うのは私の金だ。両親にも文句は言われまい」

「本当に良いのか?」

「もちろんだとも、二言はない。それに友の為だからな」


リアは片目を瞑りこちらを見た。なんというかとても様になっている。アティラさんが何かを思い出したように席を立った。


「すまないねアレン君、荷物を返すのをすっかり忘れていたよ」

「いえいえ、預かってくださって本当にありがとうございました」


アティラさんにお礼を言い少し雑談をした後俺たちはハワード商会を後にした。アティラさんは「何かあったらいつでもおいで」と言ってくれた。本当に優しい人だ。


ついでにとおすすめの宿も教えてくれた。ここからかなり近いようだ。そしてリアとアリスの2人は馬車に乗ってそれぞれの屋敷に帰っていった。


アリスの屋敷は帝国にあるのでは?と思うかもしれないが、皇族と王族は和平を結んでからはそれぞれの国に屋敷を建てお互いにいつでも滞在できるようにしたらしい。


また、俺は明日村に一度戻る。そのときは学費のことがあるためリアも付いてきてくれることになった。アリスも行きたがっていたが、流石に許可が降りないようだ。


明日のことなんかを考えているとアティラさんおすすめの〈安眠の羊亭〉についた。ここは他の宿より内装が綺麗なだけでなく、一泊で銀貨一枚という安さで、食事付きだと銀貨一枚と銅貨五枚になる。


銅貨一枚は露店の串焼き一本ほどの値段で、銅貨十枚で銀貨一枚になる。農民の平均年収は金貨二枚ほどと言われており、金貨は価値が高く銀貨百枚で一枚である。


「いらっしゃいませー!」


中から可愛らしい声が聞こえてきた。そして受付方に行き、女の子に一泊することを伝えた。


「夕食と朝食はどうされますか?」

「朝食だけ貰おうかな」

「分かりました!お客さんは初のご来店ですので朝食分はサービスして銀貨1枚です」


俺はお礼と銀貨一枚を払い、鍵とお湯の入った桶とタオルを持って部屋に向かった。お湯とタオルは初来店などと関係なくサービスしてもらえるらしい。至れり尽くせりだ。本当は夕食を食べようと思っていたが疲れが尋常ではなかったのだ。


鍵の番号の部屋に着くと俺はお湯につけたタオルで体を拭き、村から持ってきていた服に着替えてベッドに入った。ベッドに入ると強烈な眠気に襲われ俺は意識をゆっくりと手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る