第5話 入学試験

始まりの合図と共に魔法を撃ち合う音や剣がぶつかり合う音が聞こえ始めた。その魔法や剣を見て俺は驚いた。思っていたよりレベルが高かったからだ。


剣に関して言えば父と同じくらいの者が何人かいる。父は王都でも中の上くらいの実力はあると言っていた。


しかし父は大人だ。俺たちより長い年月を生きている。修練した時間は俺たちより圧倒的に長いのだ。それと同じくらいの剣の腕を持っているということは努力という言葉だけでは表せないだろう。


魔法に関しても同じくレベルが高い。魔法を打ち出す速度や詠唱速度も速く、中には無詠唱で魔法を使っている者もいる。


師匠の話では無詠唱で魔法を使える者は全体の3割もいないそうだ。ここにいる者たちは魔力量も多い。魔力量は魔法を使うほど成長し、当然だが魔力量が多いほど使える魔法のレベルは高くなる。


平民と貴族の生まれた時の魔力量を比べると基本的に貴族の方が多いが、その後の努力次第で結果は変わってくる。


「炎よ我が意に従え 火球爆発フレアボム!」

「ッ、水の障壁アクアウォール!」


受験者の剣と魔法の腕に関心していたら魔法が飛んで来た。省略詠唱でだ。まあ、戦いの最中に考え事をする俺が悪いのだ。攻撃されても文句は言えない。


そして、今俺は火の中級魔法を水の初級魔法で防いだ。魔法には相性があるため中級魔法を初級魔法で防ぐことも出来る。


だが、師匠のような魔力バカが相手の場合、初級魔法で上級魔法を貫通させることも出来る。つまり、初級魔法でも込める魔力の量によって威力も変わってくるのだ。


「ほう、無詠唱とは…貴様、本当に平民か?」

「ええ、戸籍もちゃんとありますよ?」

「面白い!そんな貴様には我が名を教えてやろう!我が名はヒューゴ・グレ…」

水の障壁アクアウォール!」


次の瞬間、目の前が炎で染まった。ヒューゴ・グレなんちゃらは直撃したであろう。これは確実に致命傷判定でリングの外に出されたな。しかし、今の魔法は確実に上級魔法の威力だった。つまり、ここには上級魔法かそれに準ずる威力をもつ魔法を使える者がいるということである。


「いや〜驚いたっす!私の魔法を防ぐ人がいるだなんて」


炎の向こうから声と共に水色の髪をした短髪の女の子が歩いてきた。何というか全体的に小さい。


「ちょ!今絶対失礼なこと考えたっすよね!?」

「イヤ、ソンナコトナイデス」

「じゃあ、何でカタコトなんすか!?」


いや、テンション高いな。喋り方は軽いが魔力量が尋常じゃない。師匠の次くらいに多いと思う。炎が消え辺りを見ると俺と女の子しかいなかった。嘘だろ?今の一撃で全滅だと?


「私はこれでも魔法に関しては超強い部類に入ると思うんすけどね、防がれたのなんて久しぶりっすよ」

「君の魔力量と魔法の威力は凄まじいな」

「そいつは嬉しいっすね!素直に褒められたのも久しぶりっす」

「そりゃあどうも」

「私はアリス・フォン・グランっす」

「俺はアレンだ」

「性なし?その化け物みたいな魔力で平民なんすか?冗談でしょ?」


アリスと名乗った女の子は笑っている。化け物と言いたいのはこっちなのに。しかし、そう考えるとうちの師匠はそれ以上の化け物か…。


「さて、おしゃべりはこれくらいにして再開しますか!まずは炎槍フレイムランス!」

「なっ!水槍ウォーターランス!」

「おっ!やっぱり防がれましたか」

「驚いたな…中級魔法の炎槍フレイムランスを十本も同時に作るなんて、しかも威力も高い」

「アレンも同じことしてきたじゃないっすか」

「まあな!氷雪地獄コキュートス!」

「次は無詠唱の上級魔法っすか!じゃあ私も少し本気を出しますね!灼熱太陽プロミネンス!」


上級魔法と上級魔法がぶつかる。相性的に最悪ではあるが互いに上級魔法。初級魔法と初級魔法のそれとは威力も規模も全く違う。空間が軋むような音がする。


ピシッ!


今度は結界がひび割れる音がした。


ピシッ!ピシピシッ!パリン!!


そして遂に結界が割れた。それと同時に爆風が巻き起こる。上級魔法の衝突にこの結界は耐えきれなかったのだ。結界で押さえ込むことが出来なかった風が会場内に吹き荒れる。


「「「うぉー!!」」」

「「「きゃあー!!」」」


受験者たちが飛ばされそうになっている。そして少しすると暴風は止んだ。


「そこまで!結界が壊れたためここで試験は終了とし、1419番と1582番の2名は合格とする!また、今から結界を貼り直すのでそれまで前半組はそれまで待機だ。試験結果は後日各家庭に届く手筈になっている、今日はもう解散だ。気をつけて帰れよ!」


「「「ありがとうございました!」」」


試験官に解散を指示された後半組は会場を後にし、学園の入り口へ向かいだした。さて、俺はリアを待った後アティラさんのもとへ向かうことにしよう。あれ?俺なんだかんだで合格しちゃったよ!まじか!


「いや〜アレンは強いっすね!まあ、決着はつけたかったっすけどね」


喜びに浸っていると後ろからアリスに声をかけられた。


「ありがとうアリス、様?」

「敬語は使わずに素でいいっすよ、それとアリスって呼んでください!」

「おう!お互い合格したしこれからもよろしくな、アリス」

「ええ、よろしくっす、アレン♪」


俺とアリスは二人で話しながら入り口へ向かっていた。


「そういえば、アリスってどれくらい偉いんだ?」

「そうっすね〜王族と同じくらいっすかね」

「は?」

「アレン!遅かったじゃない…か?」


リアが俺を見つけて声をかけてきた。そしてすぐに跪いた。え?


「アリス皇女殿下、お久しゅうございます」

「久しぶりですね、エルレンシア嬢」

「え?」


皇女?それは確か帝国の王女を示す言葉ではなかったか?つまり、アリスは…


「皇族?」

「正解っすよ、アレン♪」 



アリスはニヤニヤしながらこっちを見ている。そして頬を突いてきた。


「どうっすか?驚いたっすか?」

「あ、ああ」

「それと、さっき言ったように素のまんまでいいっすからね」

「はあ〜、もう分かったよ」

「それでいいっす!」


俺は苦笑いをした。アリスは相変わらずニヤニヤしている。俺はふと試験を合格したことを思い出した。


「あ、そうだ!リア!俺とアリスは合格したぞ!」

「おお、そうか!勿論私も合格を通達されたぞ」

「さすがリアだ!」


俺は思わずリアの両手をとった。するとリアの顔がどんどん赤くなっていった。


「どうしたリア大丈夫か?顔が赤いぞ」

「いや、その、恥ずかしくて…手」

「あっ…その、すまない」


俺はパッと手を離した。ついリアも合格したことが嬉しくて両手を握ってしまった。彼女はそれが恥ずかしかったらしい。


「いや、大丈夫だ」

「全く人前でイチャついてくれるっすね〜」

「アリス様それは、その違くて…」

「そうだぞ、それに俺とリアは今日会ったばかりだ」

「そうだったんすか?ていうかこの後2人はどうするんすか?私暇なんすよね〜」

「俺はアティラさんって人の商会に行って預けている荷物をもらいにいくよ」

「面白そうっすね!私もついていくっす!」

「ならば私もついて行こう」

「よし、じゃあ三人で行くか」


こうして俺たち三人はアティラさんの所属する商会に向かって歩きだした。

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