第3話 人生最大の失敗

「フゥー、ここがラグラール学園か?」


俺は息を切らしながら目の前の学園に目を向けた。そこは学園などというレベルではない。そこは大きな城であった。


ルブラ村など1百は入るのではないかというほどの広大な敷地、見たこともないような豪華な建物など目の前には信じられない光景が広がっていた。「こんなところに平民が通えるのか?」と疑問を抱えていると


「試験の受付は後三分で終了となります!受験する方はもういらっしゃいませんね?」


女性から受付を終了するアナウンスが聞こえた。まずい後3分しかないのか!俺は急いで受付に向かった。


「すみません!受験します!」

「はい、分かりまし…あの失礼ですが本当に受験なさいますか?」

「?」

「いえ、大丈夫です。こちらの用紙に名前と住所を記入してください。」

「分かりました。すみません、住所は村の名前でいいですか?」

「はい」


俺は時間もないので急いで名前と村の名前を書いた。字は師匠からしっかりと習っている。「覚えておいて損はない」と言うので教えてもらった。一般的に平民は学園で文字を習うのだ。


「書き終えました」

「拝見させていただきます」


女性は用紙を確認し終えたのか数字の書かれたカードを渡してきた。1582と書かれている。しかも鉄製のものである。


「これは何ですか?」

「このカードは受験者全員が持っており、受験番号を示しています。この番号ごとに案内があるのでそれに従ってください」

「そうなんですか、ありがとうございます」

「いえ、それでは試験頑張ってください!」

「はい!」


そうして俺はラグラール学園に一歩を踏み出した。


中には既に沢山の人がいる。しかし、服装が平民が着るそれとは違う。うちは裕福ではないがとても貧乏というほどでもなく、平民(農民)のなかでも一般的な家庭だと思う。


「え、ここラグラール学園だよな?」

「貴様何を言っておるのだ?」


俺が独り言をこぼしていると横から声が返ってきた。横を見てみるとそこには長く綺麗な銀髪をした美女がいた。服装は豪華というほどではないがいい服を着ている。また、一振りの剣を腰に下げていた。


素人目だがかなりの名剣だと思う。つまり彼女は貴族なのだろう。そして彼女はこう言った。


「ここはミラグレス学園だぞ?」

「は?」


相手は貴族だが驚きでつい素で返してしまった。だが、それも仕方ないと思う。俺が受けるつもりだったのはラグラール学園でトップ校のミラグレス学園を受けるつもりなど全くなかったからだ。それに道順通りにきたはずだ。そのためなぜ間違ったかが分からない。


「貴様の言うラグラール学園は西にある、つまり反対方面だ」

「なっ!おい、嘘だろ!?」

「いや本当だぞ」


衝撃の事実に俺は膝から崩れ落ちた。


「終わった…」

「まさか貴様間違えてミラグレス学園を受験したのか?」

「ああ、そうだよ…」

「アハハハ!」

「こちとら笑い事じゃねぇんだぞ!」


彼女は腹を抱えながら笑えている。しかし何故か上品に見えてしまう。これが貴族の力か?って、本当に笑い事じゃなくてヤバい。人生詰んだかも…。


「いや、すまない。平民が受けるなど珍しいなと思い近づいてみたらまさか受ける学園を間違えていたとは…アハハハ!」

「だから笑うなって!今人生最大のピンチで失敗なんだよ!」

「まあ、もうどうしようもないから全力で頑張りたまえ。ラグラール学園を受けるつもりだったのだから多少はできるだろう?」

「もう全力でやるしかないが、奇跡で受かっても学費が払えないんだよ…」

「フフ、笑わせてもらった礼だ。もしも受かったなら私が学費分の金を貸してやろう」

「本当か!?」

「ああ、本当だとも」

「マジかよ、お前優しいな!俺はアレン」

「私はリア・エルレンシアだ。公爵家の人間だ」

「公爵ってどれくらい偉いんだ?」

「王族の次に偉いんだよ、ア・レ・ン・く・ん」

「王族の次に偉い貴族!?」


そして俺は今更だが自分が彼女に敬語を使っていないことに気づいた。確か父が「貴族様に失礼な事をしたら罪に問われることもあるぞ」と言っていた。


「あの、申し訳ありません!僕、敬語で話していませんでした!」


俺は直角に腰を曲げ頭を下げた。彼女は一瞬キョトンとした後、また笑い出した。


「アハハハ!アレンは本当に面白いな!安心しろ罪になど問わない」

「良かった…」

「だが、代わりに罰を与えよう」

「な、何ですか…?」

「これからは私に敬語を使わないこと、そして私をリアと呼ぶことだ」

「はい、いや分かったよ。よろしくな、リア」

「こちらこそよろしく、アレン」





ーこの出会いと失敗から彼の英雄譚は始まったのかもしれないー

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