第25話 モンスターハウス
鼻をつく酒の匂い。
やいのやいのとテーブルを片付ける魔物達。
「腕が鳴るなぁ」と酒気帯びた顔を紅潮させて起き上がる面々。
モンスターの溜まり場『モンスターハウス』は、宴会会場としての役目を終え、戦闘するに充分な広さへと形を変えていく。
しかし賑やかに騒ぎ立てる魔物達と対称的に、ユート達は蛇に睨まれた蛙のように動けない。
たむろする魔物達の先頭、腕組み見下ろす有鱗の魔物『ドラゴン』の眼圧に身が竦む。
呼吸さえ忘れる緊迫の中で、ようやくエアが口を開いた。
「まずいわね…相手は20以上。この部屋で戦ったら袋叩きにされるわよ。
それにあのドラゴン……。
ここは一旦部屋から出て…」
言い終わるのが先か、なんだなんだと背後から声が聞こえ始める。
ドラゴンの号令を聞きつけた他の魔物が集まりだしたのであろう。
このままでは挟み撃ちになりかねない。
『倍速の魔導書』!
ユートは咄嗟にアイテムを使用し、仲魔達の素早さを強化する魔法をかける。
さらに、魔法の詠唱が終わると続け様に指示を出した。
ライムは背後の敵を撃破し挟み撃ちを防ぐ。
ユートとエアは時間を稼ぐ。
ルルは入り口に陣取り双方の援護を。
そう伝えると各々が弾けるように動き、己が相手となる敵を見定めた。
ユートの役割はアイテムによるサポートだ。
敵の数は多い。
何か全体に効果を及ぼすアイテムで数の不利を覆さねば。
アイテムを収納するポーチの中に、相手の認識能力を阻害する『混乱の魔法書』があったはずだ。
それを使えば大きく時間を稼げるだろう。
いち早く敵前へ飛び出すエアへ合図し『混乱の魔法書』の詠唱を開始する。
しかし、その手は読まれていた。
「小細工なんてつまらない真似するなよ」
焼けるような空気を感じた時には既に遅く、魔法書が手の中で焼失していく。
ドラゴンによる炎のブレスを受けたのだ。
「お前が姫様の執心しているニンゲンだな。
どれほどのものか……。
皆!こいつの相手は俺がやる!手出し無用だ!
そっちの二人を頼むぞ!」
口元から炎を溢しながら目を細めるドラゴン。
応えるようにはいはーい!と返事が上がった。
ユートとドラゴンを避けるように、魔物達がエアとルルへ飛び掛かっていく。
二人の援護は期待できそうにない。
まずはドラゴンをなんとかしなくては。
*****
風の力を操るエアには勝算があった。
四方八方から狙われるのであれば別だが、今はドラゴンとユートの領域に入らぬよう気を遣った魔物達の行動範囲は限られている。
正面から迫る魔物達は本気を出したエアを捉える事はできず、時間を稼ぐ事は容易であろうと。
「まずは一人!見たか!私の弓の腕前を!」
エアに阻まれ二の足を踏んだ魔物へ、ルルの矢が降り注ぐ。
何本かエアへと誤射が混じるが、風の加護によりダメージは無い。
「エアリアルさんそっちに付いたんですね」
「そうよ!だから遠慮なんていらないわ!」
大金槌を振り回すゴブリンの一種『ゴブリンヒーロー』と言葉を交わしながら飛び回る余裕さえあった。
エアは敵前で撹乱し、ルルに数を減らしてもらう。
「痛っ!」「なんなのよーもうー」と数を減らしていく魔物達を見ながら速度を上げ続ける。
自分は手を出さず、囮となればいい。
ユートやライムへと放った風の一撃は強烈だが、まだ幼い精霊であるエアは持久力がない。
一気呵成に攻撃を仕掛ければ回避するスタミナが尽き、数の暴力に押しつぶされるであろう。
これがこの場での正解なのだ、と。
やたらと自分へ飛んでくる矢をいなしながら思う。
「ちょっとルル!もっと相手を狙ってよ!
これじゃ終わらないじゃない!」
口を尖らせつつ振り向き……エアは驚愕した。
「あはは〜、動くモノはぜんぶ的〜♡そーれそれ♡」
夢中で矢を射かけるルルは、心ここにあらずといった焦点の合っていない目をしている。
ヤバい目だ。
この症状には覚えがある。
「私のチカラで、エルフさんは味方になってもらいました♡」
ルルの背後、腰に纏わりつく格好でそれは笑いかけた。
そこには『魅了状態』に陥れ相手を操る淫魔『ピンクスライム』の姿があった。
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