第11話 前門の強者、後門の誤者




魔族とニンゲン族との間で、公の交流が途絶えて久しいこの時代。

双方との繋がりを保っている種族がいた。


その多くが金色の髪、スラリとした肢体、そして細長い耳を持つ種族。

ニンゲンとも見間違えられる森の民『エルフ』だ。


霧に侵された魔物を避けるべく進む冒険者達へ矢を放ち、泥水に顔から突っ込み倒れているそれである。


そのエルフの、突然の襲撃に続く突然の顔面ダイブに、すわ戦闘かと身構えた冒険者達は困惑していた。

突っ伏したままではあるが…芋虫のようにモゾモゾと動いているため、気を失っているわけでは無いようだ。


どうしようか…と冒険者がスライムの方を振り返ったその時、芋虫が物凄い早さで這い寄り冒険者の足を掴んだ。



「だずげでぐだざい"い"」




*****




「もきゅ…もきゅ…本当に助かった。

恩に着る…ごくん」



プハー!と大きなパンと果物を腹に収めたエルフはキリリとした顔で礼を述べる。


見知らぬこの地を訪れ迷子になり、三日三晩彷徨った挙句行き倒れる寸前であったらしい。


顔を拭い泥だらけとなったハンカチを受け取りながら、スライムにもパンを手渡す冒険者。



「先程は取り乱して済まなかった。

敵対するつもりはなかったのだが、弓を下ろす力も残っていなくてな…暴発してしまった。


申し遅れたが、私はエルフの『ルル』という。


この地域の霧の発生状況について調査に訪れているエルフだ。…見習いだが」



辿々しく説明する彼女に聞くところ、霧と呼ばれるものは滅多に観測されるものではなく、火山性ガスのような一定の所に稀に発生する程度のものらしい。


魔族新聞でも、月一程度で霧が出ましただの、見物に行って巻き込まれただのが取り上げられる程度であると。



「私達エルフはニンゲンに近い存在であってな。

霧に侵される事はないのだ。

それを活かして霧の観測や取り込まれた者の救助を行なっているのだが…」



それにしてもこの地域の霧の発生率は異常だ、と言葉を続ける。


この地域は彼女が所属するエルフの里からは距離があるが、異常な霧が里に迫らないとも限らない。

事態を重く見たエルフの里の上司達は「熟練の」見習いエルフをこの地に派遣する事とした、と語った。



「熟練の見習いって何さ…」



スライムが不審な顔で呟く。


『金髪 + 腹ペコ + よく喋る』


の組み合わせに嫌な思い出があるのだろうか。芋虫を助ける段階から口を尖らせていた。



そんなスライムに苦笑いを浮かべ、霧の原因に心当たりがあるかもしれない、と冒険者はルルへ伝える。


この一帯に結界が貼ってある事。

結界が霧を留めているかもしれない事。

ここから見えるあの塔に結界を貼った主がいる事を。



「本当か!実は何も手掛かりが無くて困っていたのだ。

このままじゃ里に帰れなくって…


いや何でもない。

どうだ、私も同行してやろうか!いいだろう?!」



無い胸を張り連れて行けアピールをするルル。異変解決まで帰る事が出来ないのであろう。

土地勘も無い彼女は必死である。


冒険者は考える。

仲魔は多い方が良いだろうし、何より彼女の武器は弓矢だ。

近接打撃を務めるスライムに、多彩なアイテムでサポートをする冒険者。

そこに遠距離からの射撃要員が加わる事はバランスの面で不安は無い。


浮かない顔をするスライムを説得し、エルフのルルをパーティに加えてみようかと思案していると、ルルが弓に手を立ち上がった。



「実力も知らぬ者と旅をするのは不安だ、というのは分かる。

ならば私がいかに役立つか、この戦いで見せてやろう!」



「「こやーーーん!!」」



ビリビリと耳をつんざく鳴き声に振り返ると、全身が紫の靄に包まれた狐の魔族が、冒険者達の通った道を駆けてきているではないか。


出会わないよう避けて来たのだが見つかってしまった。

逃げられる距離ではない、このまま戦闘になるだろう。


覚悟を決め武器を握る冒険者と、ファイティングポーズをとるスライム。

そしてルルが弓を番える。



「ハインの里筆頭見習いエルフのルル!

我の一矢を受けよ!

…って、私の前に立つなあぁー!」



最初から前に居ただろう?と冒険者は疑問に思う。



プスっ!



恐る恐る振り向くと、冒険者の臀部に木の矢が直撃していた。



痛い…これは8ダメージぐらいかな…



前門の強者、後門の誤射。


激しい戦いの幕が切って落とされた。



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