第2話 みんなで観戦
魔族とニンゲンの戦い。
その戦いから一夜明け、魔王側近魔術師メルトは、拠点としている『帰還の塔』に戻るも、未だ興奮が冷めずにいた。
鼻息荒く騒ぎ立てる魔術師様の正面、帰還の塔のスタッフ兼メルトの側近子守でもあるガーゴイルは、青みがかった石肌をさらに青く染めげんなりと頬杖をつく。
彼女は前日の出撃時に転移の有効範囲から外れたガーゴイルの一人であり、面倒な戦闘をせずに済んだとお花見を謳歌していた。
明日もまた行きたいなぁと、塔で寛いでいたところニコニコ顔で帰還したメルトに話し相手として連行され、何度目か分からない武勇伝を聞かされる羽目になっていた。
初めてのニンゲンとの戦い、配下のガーゴイルを華麗に操り、ニンゲンの魔術を華麗に捌き、見事に勝利をもぎ取った!
という軌跡を繰り返し、夜通し聞かされ続けている。
眠い目を擦りながらも楽しげに語るメルトを前に、どうやってこの場を抜けようかと思案するが…水を差さずにお暇する妙案が上がらずに困り果てていたのだ。
「それでね、悔しそうな冒険者の目の前でこう言ってやったんだ!」
ポーズを付けて「我は塔で待つ」とメルトが言い放つと同時に、ガチャリと扉が開いた。
「おはようございますメルトさん〜、昨日の冒険者、ダンジョンに入ったみたいですよ〜」
ほんとか!とキラキラした顔で駆けていくメルトを見送り、扉を開けた者に後は頼むと目くばせすると、顔の青いガーゴイルは抗うことなく眠りに落ちていった。
『ダンジョン』とは、世界を構成する魔法の力『マナ』を元に地殻変動を続ける地域を指す。
そこにはガラクタや財宝が生成され、この産出物はニンゲン魔族双方の生活を支える資源となっている。
そのダンジョンを幾つか超えた先にある帰還の塔の一室、昨日メルトが冒険者のレベルを奪い取った力の宝珠に、プロジェクターを通してダンジョンを進む冒険者の姿が映し出されていた。
「昨日あれほどボコボコにされたのに元気なやつよのう!」
「そりゃ加減しましたからね…」
「ね〜」
一睡もしていないにも関わらずアドレナリン全開のメルトと、小声で愚痴りながらチョコレートを盛り分けるガーゴイルの二人。
「あとどのぐらいでここまで来るかな?!準備していた方がいいかな?!」
「私達は転移使えるからすぐですけど、彼は今日明日に来れる距離じゃないですよ〜」
「まったり観戦してましょうよ〜、っと…あっ!」
山盛りのチョコレートに手を伸ばした矢先、大金槌を振り回す魔族『ゴブリン』の一撃を受け地に伏した冒険者が映し出された。
「フハハハ!今の見た?!攻撃何回も外してやられてるの!ゴブリンちゃんさすがだよにぇっ?!」
「はいは〜いメルトさん、倒れた冒険者からレベルを奪いに行きますよ〜。
力の宝珠持って支度してくださいよ〜」
「待っ、待ってまだチョコレート残って…」
「モタモタしてると彼、拠点の村に転移されてしまいますから行きますよ〜」
ぎゃあぎゃあと名残惜しく喚くメルトを引きずりながら、帰りに晩御飯の買い出ししなくちゃな、と転移の光に消えるガーゴイル達。
数刻後、買い物袋と宝珠を手にしたメルトに、二度目のニンゲンレベルドレイン体験談を聞かさせることになり、またも不眠者が続出することとなった。
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