第17話 次なる美味しいものへ

 朝になり、ミルが起こしにきた。


「おはようございます、魔女。湯を用意しましたのでお顔を洗いください」


「ありがとう。朝食はミデリオ様たちと同じにしてくれる? 少し、お話したいことがあるから」


「はい、わかりました。お伝えします」


 一階の洗い場的な場所へと向かい、お湯が入った盥をもらって顔を洗い、残りがもったいないので体も拭いておいた。


 さっぱりしたら歯を磨き、髪を整える。


 あ、法衣から使用人服に変えておかないとならないか。いや、暗部が動いているから法衣のままでもいいのかな? どっちだ?


「魔女様。大奥様と若奥様の用意が整いましたので二階にどうぞ」


 おっと。ゆっくりしすぎたわね。


 暗部の実力を信じて法衣のまま二階へと向かった。


「おはようございます」


「おはよう。よく眠れたかしら?」


「はい。とても」


 暗部がきたってのに、ぐっすり眠れるんだからわたしって神経図太いわよね。まあ、留学先で神経図太くないと過ごせなかったけどね。


「若奥様、おはようございます。体調はよろしいようですね」


 たった一晩で体調が回復することはないけど、ぐっすり眠れて陰りはなくなっている。精神的負担が消えたからでしょうね。


「はい。久しぶりに眠ることができて、少し寝坊しました」


 それほど睡眠が深かったことね。やはり精神的負担がなくなった証拠ね。


 朝食は軽く炙ったパンと野菜スープ。味は塩となんだろう。肉の味がする。骨を煮込んで出汁を出したのかな?


 騎士の家の朝食はあっさりしたものなのかな? って思いながら完食。朝としてはまあまあだったわね。


 食後、お茶を飲み、夜のことを二人に話した。もちろん、暗部のことは内緒。手紙がきたことにしておく。


「……そう。わかったわ……」


「対応しないわたしが言っても不安でしょうが、体はよくなります。安心してお任せください」


 死なないことだけは保証する。わたしもあれの効果は見たからね。


「若奥様は親戚の訃報を受けて実家に帰る。その辺の情報は大図書館で用意しますし、馬車も偽装し、近所には訃報の情報をそれとなく流しますのでご安心してください。若奥様とラウルス家の名誉に傷をつけることはありませんから」


 これからのことを考えて偽装もしっかりやっていくとも書かれていた。だから上手く説明しろとのことだった。


 ……わたしの負担、大きくない……?


「ええ。あなたを、大図書館を信じるわ」


「はい。大図書館の名に懸けて若奥様を健康にしてお返しします」


 がんばるのはわたしじゃなく医療部。口が軽くなろうものである。


「なにを持っていけばいいのかしら?」


「そうですね。大体のものは大図書館で用意するので、偽装用に鞄二つくらいの服でよろしいかと思いますよ。迎えは昼過ぎなので慌てず用意してください」


「わかりました。片付けが終わったり用意してきます」


 パッパと片付けを済ませて部屋を出ていった。


「ミデリオ様。若奥様の旦那様にはお知らせしますか? 連絡するなら大図書館からしますが?」


「いえ。息子には内緒でお願い。知らないほうがいいでしょう」


「わかりました。そうします」


 ミデリオ様がそう願うなら、その願いを優先しましょう。


「あと、若奥様が出発したらわたしは失礼させていただきます。いつまでもお邪魔していられませんから」


 本当はここを拠点にして騎士の家を調べたいところだけど、見知らぬわたしがいつまでもいたら不振がられるでしょう。若奥様が出発したらわたしも出発ほうがいいでしょうよ。


「そうですか。ありがとう」


 頭を下げるミデリオ様。


「それはミルに言ってあげてください。ミルがわたしを連れてきたのですから」


「ええ。ミルにもお礼を言っておくわ」


 それからお昼までミデリオ様から騎士の話を聞き、昼食どうしましょうか? って話してたら手紙が現れた。


「大図書館からです」


 中を開くと、用意は整ったので、一時間後に到着するとのことだった。


 昼食は軽く済ませ、お茶を飲んで待っていると、ミルがやってきた。


「失礼します。若奥様のご実家から馬車がきました」


 ん? ミルになんか仕掛けた? 当たり前のように実家からって言ったわね。


「ミデリオ様。若奥様。いきましょうか」


 二人が黙って頷き、鞄を持って玄関へと向かった。


 迎えにきたのは、たぶん、暗部。幻惑を纏っているので誰かはわからないけど、なにかきのうきた二ノ一っぽい。


「大図書館の使いです。ご準備はできておりますか?」


 声まで男の人とか、凄いわね。


「はい。できております」


「では、早速ですが、出発します」


 鞄はミルが持ち、外に出て馬車に積んだ。


 若奥様も馬車に乗り込み、出発を見送る。あっと言う間の流れだが、変に偽る必要もない。どうせ目撃者はいないんだからね。


「何日かかるかわかりませんが、経過報告は届くと思います」


「ええ。わかったわ」


 こちらに目を向けることなく馬車を見詰めたまた返事をするミデリオ様。無表情を装おっているけど、内心は不安でしょうがないみたいね。


「ミデリオ様。わたしはこれで失礼しますね」


 一度席を外して用意はしております。


「また、この近くにきたらよってください。歓迎します」


「はい。そのときはよろしくお願いしますね」


 いつになるかわからないけど、そのときは子どもが産まれていることでしょう。


「ミルもありがとうね。貴重な記録ができたわ」


「いえ、こちらこそありがとうごさいました」


「じゃあ、お互い様ってことで。お邪魔しました」


 幻惑の魔法をかけ、姿を消した。


 さあ、次なる美味しいものを求めて出発よ!

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魔女のグルメ旅 タカハシあん @antakahasi

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