第55話 見果てぬ夢を見続ける者から
実験は
実験の内容は人工迷宮発生装置を起動させ、アルフレッドが実験室に
実験は朝になるまで
準備が
マラカイト博士は一階の部屋で
アルフレッドはラトとコミュニケーションを取ろうと
アルフレッドが行ってしまうと、ラトは
「マラカイト博士の研究に協力しようだなんて
「ああ、何も聞こえないけど、本当にその通りだな。すまないが馬との
「今は
ラトはクリフの耳から
真夜中に
「人の話を聞く時に耳栓なんて、失礼だよクリフくん」
「お前の食後の会話のテーマ選びが
「いいこと思いついた。今度やったら、クリフくんとジュリアンが恋人どうしだってデマを君の目の前で
「やってもいいが、お前かジュリアンのどちらか片方は死なないといけなくなるってことを忘れないでおけよ」
「きみ、ちょっと、アンダリュサイトに戻ってない?」
「そんなことより、こんなところで
「そんなもの僕が売るほど持っているわけないだろ。アルフレッドなら持ってるんじゃない?
クリフはため息を吐いた。
「そういう意味じゃない。探偵騎士団の挑戦状のことだ。さっさと
「ああ……そのことか…………」
「霊廟は目と鼻の先なのに、今回はお前さん、ろくに調べもしてないじゃないか」
「霊廟を調べることはできないんだ。僕が直接行っても
「え? どうして」
ラトは
封筒の中にはやはり赤い
ランプの下にかざすと、絵が描かれているのが見えた。絵画ではない。
事件が起きた霊廟を
下敷きになって死んでいる男のスケッチもある。
スケッチはかなり
霊廟が元々はどんな姿をしていたか、崩れ落ちる前の姿も描かれている。
それによると、マラカイト博士が建てた霊廟は両開きの
大きさの割に
「ここに書かれているのは探偵騎士団が事前に調査した霊廟の様子だ。ほかにも霊廟にどんな
「なんでそんなことを……?」
「これは
それを聞き、クリフは何とも言えない気持ちになった。
霊廟に近衛兵を
しかしラトが言うことが真実ならば、それはまったくの思い違いというものだった。
彼らがそうしたのは、あくまでもラトへの挑戦のためだ。そこに他者への思いやりや配慮などというものは一切なかったのだ。
「人が死んでるっていうのに……推理ゲーム……?
「これくらいで
「おいおい、これが初めてじゃないのか?」
「もちろんだとも。他にもいろんなことをさせられたよ。僕がもっと小さいときなんか、突然、
「小さいときって……、それ、いくつくらいのときだ?」
「六歳と一ヶ月だ」
「まだほんの子供じゃないか」
「それが名探偵になるために必要な
「パパ卿は何も言わなかったのか?」
「探偵騎士団にはだれも
ラトはさも当然だと言わんばかりの口ぶりだ。
クリフは言葉を失った。ラトと共に過ごした期間、
ラトは普通の人間にはない知識を持っている。
暗号の知識、他人の
それらをいったいいつ、どうやって覚えたのかと考えると、ぞっとする。
「クリフくんは何歳くらいで剣の
クリフは今度こそ本当に黙り込んだ。
かすかな明かりの向こうからクリフを
クリフが何かを言おうとしたそのとき、二階で物音がした。
かすかな声ではあったが女性の
「やめてください……!」
リサの声だった。
すぐさまクリフは階段のほうへと向かう。
なるべく足音を殺して二階を
暗がりの中で小声で話しながら男女がもみ合っている。
片方はリサ、もう片方はアルフレッドである。
「まあそう嫌がるなって。仕事がはじまるまで、部屋でゆっくりしようって
「は、離してください……!」
「いいじゃないか、お互い知らない仲じゃないんだからさ」
クリフは
階段の下から現れたラトは
そしてクリフの合図を受けて両者を
がーーーーん! と、鍋とフライパンの熱い
「だれだっ!」
アルフレッドが廊下を振り返ると、そこには階段の前で
「ばかやろう! 夜中だぞ!」
「え? なに? ぜんぜん聞こえないよ《
「
「閃光の
「こっちは聞こえてるんだよ!!」
一瞬で
アルフレッドが剣に手を伸ばした瞬間のことだった。
ラトに気を取られているうちに死角から近づいたクリフが、
「くっ。
逆の手でレガリアに触れようとした瞬間、アルフレッドはクリフに投げ飛ばされて宙を舞うはめになった。
そして地面に叩きつけられたときにはすでに上体を押さえ込まれ、後ろから首筋にナイフを突きつけられる
たとえどんなに強力なレガリアを持っていたとしても、
「レガリアに少しでも
「やめろ! 俺がいなくなったら実験は続けられないぞ!」
アルフレッドは
クリフとしては、こういうクズがどうなろうと、そして
が、しかし。その言葉に顔を青くしたのはリサだった。
「アルフレッド様の言う通りです。どうか離してあげてください……」
リサが言うならば、離すしかない。
クリフはアルフレッドを押さえつけている腕の力を抜いてやった。
ラトはその間もずっと鍋とフライパンを叩き続けている。
流石の
「うるさーーーーーーーーい! おまえたち、実験の時間じゃぞ!」
階下から、フライパンと鍋の
*
アルフレッドはクリフをめいっぱい
覚えていろよ、とでも言わんばかりだった。
実験の最中は
夜が明けて実験が終わった後、どうなるかは誰にもわからなかった。
「出てきたあとにまたひと
げんなりとした様子のクリフに、ラトは
「君さ、イエルクの教えは使わないようにするって言ってなかったっけ?」
「人助けのためなんだから仕方ないだろ」
そうは言ったものの助けられたかどうかは微妙なところである。
調子に乗った同業者を力で痛めつけるのは簡単だが、
実験がはじまったあと、マラカイト博士は再び自分の部屋に戻った。
博士の世話を終えたリサが寝室から出てくると、クリフは声をかけた。
「リサ、少し話せるか?」
彼女は
そして
「先ほどは、助けていただいたのに失礼な
「俺のほうこそ考えもなしにでしゃばってすまなかった。だが、もしもあのアルフレッドとかいう奴に
「ご心配おかけしてすみません。ですが、私とアルフレッド様の関係は、お二人が思うようなものではありません。さっきは暗闇の中でいきなり声をかけられて驚いてしまいましたが……」
リサはそう言って黙り込む。
彼女は両手を強く
そこには確かに強い感情があるのに、表情にだけは浮かべないよう、必死に
ラトは赤い手紙から顔を上げて、そんなリサを見あげた。
「
「博士のためなのです」
リサは意を
「博士はこの実験のために
その後の言葉は続かなかった。
リサが足りない資金をどうしたのかは、アルフレッドの
「マラカイト博士には黙っていてくださいませ。すべては実験を
「どうして、そこまでして博士に協力しているんだい?」
「私は王都の近くの村で育ちました。そして、十四歳になった春に夫のもとへ
十四歳での結婚というとかなり若いように思えるが、農民であれば
貴族の
「でも、
生まれてからずっと畑を
田舎育ちで
「そしてとうとう奉公先を追い出され、
誰にでも
彼女は博士のもとで科学を学び、やがてマラカイト博士のことを心から尊敬するようになった。
「博士にとってはこれが最後の、
リサはそう言って目じりに
クリフはなんと答えていいやらわからない。
「リサ、今度の実験は成功すると思うかい?」
リサは少し考える
それから、ラトに背中を向けたまま答えた。
「……はい、もちろんです。実験はかならず成功します」
そう言うと
そのままクリフとラトは居間で過ごした。
実験がどうなっているかが気になるところだが、朝になり扉を開けてみるまでは、誰にも結果がわからないのがもどかしかった。
室内は
王都の夜は
それというのも、
王都ロンズデールはオルロフ2世の時代から
大理石は見た目は美しいのだが、熱や冷気を
しかも離れには
この実験が成功するまではと、リサと博士が
ラトは
「何か情報はあったか? ラト」
「さあ……とくに
「そりゃ、
「そんなことはわかっているよ。でも、
「暗い
「まだマラカイト博士は死んでいないよ? それに、死体は明るくても暗くても気にしないと思うけど」
眠りこまないように気をつけながら、実験室の様子を見守る。
あまり興味のない実験ではあるが、博士の偉大な実験が成功するかどうかといったこと以上に、その成功を心から願っているリサのことが
じきに離れの
アルフレッドが
無理もない。野宿には慣れているクリフですら
「あの
ラトも実験が気になるのだろう。
クリフの何気ない
「そのあたりはマラカイト博士も気を
「なるほど。言われてみればそうだな」
「可能性があるとしたら、タンクの中身が
それから一時間くらいした頃だろうか。
実験が行われている石蔵は
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