第54話 閃光のアルフレッド登場
ラトが話していた通り、かつてチェネク・マラカイトことマラカイト博士は
博士はしょっちゅう宮廷に
しかし探偵騎士団が
探偵騎士団たちはその
竜巻はショウとしてはすばらしいかもしれないが、貴族たちの悩み事まで
とくに博士の立場を
今でこそパパ卿と呼ばれ父親役が似合うような男ではあるが、当時は
侯爵位を持つ
こうしてマラカイト博士はしだいに人気を失い、
そして探偵騎士びいきの王子が
マラカイト博士は探偵騎士団に相当のうらみつらみがあるのだろう。
その名前をきくだけで顔を真っ赤に
「ウチの墓が
「霊廟の下敷きになったニック・ナイジェルという男に
「あるわけなかろう! どーせつまらん
「何か
「いいや。だが、あれが事故でないという証拠も無いのだぞ! それなのに探偵騎士団どもは
「ふむ……」
ラトは博士の
どうやら、マラカイト博士は
あくまでもラトのことを探偵騎士団の使いだと思っているようだ。
もちろん、その
ラトはいつも通りマラカイト博士をつぶさに観察していた。
その
その視線が、使用人であるらしいリサに向けられる直前——。
「おいリサ、ワシのミルクはまだか! ワシは、
マラカイト博士が
リサは青い顔つきで全身を
「フン!
「彼女は博士が最近
「うむ。二年くらい前になるか。ワシもトシじゃ。病気を
リサがミルクを入れた小さなカップを手に戻ってくる。
リサは金色の髪がまじった明るい色合いの
リサの、ミルクを差し出す指先が
「もうよい、リサ、お前は部屋に下がっていなさい」
リサは黙って
階段で二階に上がったのが天井板の
クリフには、マラカイト博士のそれは使用人に対する
「マラカイト博士、博士が行っておられる科学実験は、もしかすると博士の
「うむ。その通りじゃ。わしと、そして今は亡き
深い
クリフはラトに
「あの研究ってなんなんだ?」
「それはね、
「じ、人工……迷宮……!? なんだそりゃ……」
クリフにとっては科学ですら手に
「その名の通り、人間の手で、迷宮を作っちゃおうという、人類史上かつてないほど
「迷宮って……俺の知ってる迷宮のことだよな……? 魔物がウヨウヨ
「そう。クリフ君たちが日頃、レガリアを求めて命がけで探索してるその迷宮だ。それを人の手によって作り出すんだよ!」
「聞けば聞くほどよくわからないんだが……」
「こんなにわかりやすい話なのに、何がわからないの?」
「そもそも人間なんかにそんなことできるわけないだろっていうのは置いとくとして……迷宮を人工的に作るってのは、わざと作るってことだよな。なんでそんな危険なことをするんだよ」
知っての通り、レガリアを
しかし迷宮内部から生まれるものはレガリアだけではない。
地上ではお目にかかれない
まだ魔物が迷宮内にいるうちに
この迷宮がどうして生まれるのかについては、
迷宮であればどんなに小さい
そんな迷宮を人間の手で生み出そうというのは、可能か不可能かという議論よりも前に、
「迷宮を人の手で生み出せるようになったら、確かに危険もあるね。でも、いいこともあるよ、クリフ君」
「んなもんあるわけないだろ……」
「そうかな。じゃあ、女神の
「魔法?」
「クリフくんも知っての通り、魔力は
そこでは人も奇跡の力を
たとえば、迷宮の内側ならば、死んだ人間を
「なるほど、そうか。もしも人工的に迷宮を作り出すことができるなら、迷宮の外でも
「ケガや病気の
そう考えると、マラカイト博士の研究は
しかしマラカイト博士はどこか
「魔法は科学にあらずじゃ。しかし先王陛下はこの研究に期待を
「わあ、それはヒドいですね」
三か月、という言葉を聞き、クリフはラトに小声で話し掛けた。
「おい、ラト。それはきっとお前のせいだぞ」
「え? 僕のせい?」
「お前の力試しなんだろう、これは……」
博士の研究を止めているのは探偵騎士団かもしれないが、そもそも研究をやめさせたのはラトのせいだ。
もしもラトが王都に来るまでにあちこち寄り道をしていなければ、博士の研究はもっと早く再開できていたことだろう。
そう言うと、ラトはいまいちピンときていない顔で首を
「それじゃ、僕のほうから探偵騎士団に、実験だけでも再開できるよう申し入れてみようか。クリフくん、さっそくタウンハウスに戻ってパパ卿に
「なんで俺が?」
今度はラトが小声になる番だった。
「僕はここでやることがあるんだ」
ラトはそう言って軽く
*
パパ卿にラトからの
そして騎士団からの返答を聞くや
実験はマラカイト博士の家の離れで行われる。
その準備にはラトも
しかし内部は
それをマラカイト博士がさらに
全ての窓を
壁や天井も頑丈に
扉を閉め、鍵と閂をかけてしまえば、実験室は中からは開かなくなる。
その煙突も
マラカイト博士は手ずから、窓に
「牢屋でもあるまいし、どうしてこんなに
思わずクリフが
「もしもワシの研究が完成し、実験が成功したら、この部屋は
たとえ小型の魔物一匹であっても広い王都の中に
「できれば暖炉も取り外して
「はい、博士」
「なんだ、ちゃんとそういうところにまで気を
「当たり前じゃ。ワシを何だと思っておる」
「いやあ、てっきり実験ってのは、仲間を
「なんじゃそりゃ。そんな犯罪者まがいの
犯罪者まがいの詐欺師ことラト・クリスタルは
「クリフくん、ちょっと、これを見てご
ラトに呼ばれて見てみたものの、それはクリフにはどう
ただし金属製の装置の真ん中に
「まさかこの装置にはレガリアが使われているのか?」
カーネリアン邸の地下室で灰になったレガリアと同じくらいの大きさはあるだろうか。
マラカイト博士は
「そうじゃ。しかもこのレガリアは《ロンズデーライトの星》じゃ」
「なんだって? 王室の
「もちろん、ここにあるのはただのカケラじゃ。《ロンズデーライトの星》の
マラカイト博士の解説によると、天井ギリギリまで
「強いレガリアのあるところには、かならず迷宮がある。レガリアの力を最大限まで引き出せば、迷宮と同じ
ほかにも室内には普通の
壁からは太い鉄パイプが生え、赤い
ラトがバルブに近づくと、リサが声を
「
それまで後ろに
鉄パイプは
「なんでそんな恐ろしい仕掛けがあるんだ……?」
「毒ガスは、もしもこの実験が成功したときのためのものです。つまり、魔物が発生したときに、魔物を殺せるように保険として用意したのです」
「毒ガスがきかない魔物もいるでしょう」
「ですから、ガスは
マラカイト博士がそれほどまでに魔物対策を
「探偵騎士団が実験のやり方に文句をつけてきたんじゃ。魔物を一匹でも逃がしたら実験は中止、レガリアの
実験をはじめたばかりの頃は、もしも魔物が現れたら、この毒ガスを部屋に流し、マラカイト博士が魔物もろとも死ぬ
しかし博士の体が不自由になり、実験どころか生活ですらリサの手を
まさかリサに毒ガスを
「今はしょうがなく金を
しかし、その費用が思ったよりも研究予算を
依頼を
研究のために
「じゃあ、かわりに俺がその役目をやるってのはどうだ?
「クリフ様には魔法の知識がおありなのですか?」
純粋な
人工迷宮発生装置で実験室が迷宮化したかどうかは、魔法が使えるかどうかを試すのが一番よい。しかしクリフにはその手の知識が
初歩的な
「……おありじゃないです」
「クリフくん。君は僕の相棒だろ? 実験室に閉じこもりきりは困るよ」
ラトが言ったが、クリフは複雑な
魔法も使えない、レガリアの力もない、ただの駆け出し冒険者でしかないクリフの王都での価値はほぼ
実は相棒として評価してくれるラトのほうが
その後、実験に参加する冒険者がマラカイト家にやって来た。
ロンズデーライトの星の効果もあり、周辺には
クリフたちが王都に来たときに護衛役を
どんな奴が来るのかと待ち
「俺は《
そう言って、人差し指と中指の二本を揃えて
革の
身体的要素やレガリアのほかにクリフと違いがあるとしたら
アルフレッドの
しかも、体全体からほのかに
たぶん王都という
それに魔法という特技があるからか、クリフよりも
「見たところ、お仲間……ってところだな。アンタ見たことない顔だが、
アルフレッドはそう言ってサラサラの前髪をかき上げ、ポーズを取ってウィンクをしてみせた。
「いや……。最近ディスシーンから出てきたばかりで、魔法の
なんとなく仲間だと思われるのが嫌で、クリフは名前も名乗らなかった。
ペリドット邸の使用人が気をきかせて食事を差し入れてくれたので、全員で夕飯を囲み、実験は夜から行われることになった。
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