第52話 やたら長い旅路
王都ロンズデールの輝きは噂以上だった。
宮殿を中心とした
その輝きは王家が所有する
このレガリアには魔物や
オルロフ2世は《ロンズデーライトの星》を手に入れたことをきっかけに
ロンズデーライトの星は現在、王宮の地下深くに
オルロフ2世は都に地下道をめぐらし、あちこちに
だからロンズデールを空から
クリフとラトが到着した時間帯は昼前であったため、その光は
しかし塔の
王都の街も
多い家では四重にもなるという遮光幕がなければ、王都の夜は眠れないようだ。
ラトとクリフが乗り込んだペリドット家の馬車にも二重の遮光幕が取りつけられていた。
馬車がロンズデーライト一族の
「ペリドット家のタウンハウスはもうすぐだよ。僕はカーテンを閉めていても、何度道を曲がったかや
「ラト、その前に聞かせてほしいことがあるんだが……いったいなんでこんなに時間がかかったんだ?」
ラトは
「ごらんよクリフ君! ロンズデーライト王家の
そこまで言って、ラトは口ごもった。
クリフは
「パン屋と
「……いずれも
「
ラトは
クリフはため息を吐いた。
「ほかに何か言うべきことがあるだろう。迷宮街から王都まで予定の二倍もの時間がかかったのは、お前のせいなんだぞ、ラト」
そう言うと、ラトは
クリフたちは迷宮街を出た後、当初の予定通り迷宮街から王都へ向かう
急な
最初に世話になった隊は家族経営のところで、クリフとラトは
しかしそれは、ラトがこの隊を
クリフとラトは取るものもとりあえず、街道を
それから森の中を何日かさ迷い、手持ちの食料が
クリフは命を助けられたことを心から感謝した。
だが、ラトが
見知らぬ山に入り込み、
ラトは少し考え、クリフに言うべき言葉を探し当てた。
「まさか山小屋の老人が
「違う! 行く先々で問題を起こして
ラトが息をするだけ周囲の人間に
「問題だなんてとんでもないよクリフくん。僕は
「本当にか? わざとやってるんじゃないのか?」
「わざとって?」
「王様に
「ああ。確かにそれは楽しい用事ではないけれどね。王都ではパパ卿が僕の
カーネリアン邸の複雑な人間関係を
そしてラトがパパ卿のことを心から
クリフの
「…………それはそうなんだが」
「ヘンなクリフくん!」
クリフは何だか言葉にならないモヤモヤを
タウンハウスとは、貴族たちが王都に
貴族は王国のあちこちに領地を持ち、
もちろんロンズデーライト王家にとっては、貴族たちが自分の領地に引っ込んで悪だくみをされては困るので、定期的に王都に呼び寄せたいという
それはさておき、ペリドット侯爵家のタウンハウスは
ペリドット卿の
ラトの帰宅を喜べるとは、流石に実家である。
ペリドット侯爵家のタウンハウスの
窓からはレガリアの清浄な光が差し込み、高価な
もしも天国があるなら、きっとこのようなところなのだろう。
パパ卿はラトたちの到着から一時間ほどして屋敷に戻って来た。
「ラト!」
「パパ卿!」
事前に知らされていたのだろう。
パパ卿はマルタで出会ったときと同じく明るい色あいの上着を着て、
しかし今は
感動の親子の再会だが、クリフにとっては何とも言えず
ジェイネルとラトの組み合わせは、嫌でもアンダリュサイト砦での出来事を思い出させるからだ。
「ラト、元気だったかい。二か月も
「とんでもない。いい機会だと思って、クリフくんとあちこち
物は言いようである。
ジェイネルはそこでようやくクリフの存在に気がついた。
そしてクリフが
しかし、それは
ジェイネルのやり方は
彼は両手を広げて
そもそも、ジェイネルは侯爵家の
しがない冒険者に頭を下げる必要性は全くない。
クリフがアンダリュサイト家の四男であることを考えても、
このような礼を彼から受ける理由にまったく思い当たらず、クリフが
「ペリドット侯爵家の
クリフはようやく気がついた。
それはアンダリュサイト家の
アンダリュサイト砦を出た後、キルフェは選定の儀式を
思いがけない
その方法を思いつかなかったからではない。複雑な感情の問題だった。
聖女として選ばれることはもちろん
選定の儀式から一年間、聖女を
しかしそうした名誉と引き
アンダリュサイト家は、かけがえのない家族を永遠に
そしてクリフにとっては、キルフェはそれ以上に大事なものだった。
そのようなあらましが一瞬で胸のうちを
「息子を
わざとジェイネルは明るい声で言い、クリフの背中を軽く叩いた。
まるでクリフの何とも言えない複雑な
いや、彼はラトの父親だ。きっと何もかも
彼はアレキサンドーラから王都まで二か月もかかったことについてはひとつも
広々としたテラスから見下ろす庭には
カーネリアン邸の
テーブルに用意された昼食は、新鮮な野菜や果実をふんだんに使った料理だったが、その
銀食器はぴかぴかに
食事中もメイドたちが何くれとなく世話を
彼女たちは
それがどういうことかと言うと、つまりはこういうことである。
スープの皿を下げた後、肉料理の皿の上にソースをかけようとしたメイドが、クリフの皿の上に手を
クリフはその件について一言も発していなかった。
食後のお茶の時間になると、またこのメイドが静かにやってきて、クリフのカップのそばにだけミルクと
もちろんミルクが欲しいと思ったことも、角砂糖をふたつ入れたいと思ったことも、まだ誰にも言っていないのだった。
さすがにメイドを呼び止めて、クリフはこの疑問を口にした。
何も言わないのになぜわかったのかということである。
するとメイドは
「ラト様ほど確かな目はございませんが、わたくしどもも
と答えた。
つまりこの屋敷の使用人たちはみな、
輝かんばかりの王都の貴族の暮らしと、探偵騎士のとんでもなさに、クリフはただただ
しかし、ラトとジェイネルはそれを
「本当に君たちが
ジェイネルは食後のお茶を飲みながら
ローズとペパーミントの
「手紙に書いたとおり、アンダリュサイト砦で起きた
「ペリドット卿、まさかそれはキルフェが聖女であるということに
親子の会話だとわかってはいたが、妹のこととなると、クリフは口を
ジェイネルは
「とんでもないよ、クリフ君。騎士団はその点を疑っているわけではない。いかなる方法、目的であったにせよ、教会はすでにキルフェ嬢が奇跡を起こしたと
ジェイネルはそう言ったが、その口ぶりはまるで
砦の件でラトがジェイネルに伝えたのは、あくまでも結婚に必要な
ラトはパパ卿相手とはいえ、
しかし、それでもジェイネルは
そう思うと、ここでなされている会話は見た目のほがらかさ、のどかさにくらべて
「言っただろ、クリフくん。探偵騎士団は天才頭脳集団なんだ」
ラトの言葉の意味が、ようやくわかりかけていた。
ジェイネルはラトに探偵術を教えた人物で、ラトと同じくらい
きわめて
しかし、赤い手紙を送りつけてきたほかの探偵騎士はどうだろうか。
「パパ卿、探偵騎士団には僕から直接お話をします」
「それがいいだろう。しかし、騎士団はその前にラト、君の実力が探偵
そう言って、ジェイネルはテーブルに見覚えのある赤い
「三か月ほど前、王都で起きたある事件の
ラトは新しい手紙に手を伸ばしたが、ジェイネルがそれを
「
「俺……ですか?」
「探偵騎士団は、ラトがその助手としてイエルクの
クリフは助手なんかではない、と
祖父イエルクがどのような種類の悪魔だったかについては、クリフも
いくら味方だとはいえジェイネルは王国の
むしろクリフやキルフェがイエルクの関係者だとわかっていて、持参金を持って
「パパ卿、クリフ君は正しい心、正義の心を持っています。イエルクとは違います」
「もちろん息子が選んだ人を
ジェイネルは挑戦するかどうかと
もし
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます